見出し画像

全部嘘日記

会社を辞めた

最初のうちは慣れないながらもなんとか仕事をこなし同僚と楽しくランチして帰り道にカフェに寄っ…残業残業残業仕事ができない残業残業残業上司からの舌打ち残業残業残業数時間コピー機空き待ち残業残業残業愛想笑い残業残業残業毎日どこかで必ず起こる怒号残業残業残業陰口残業残業残業有休取得率脅威の0.01割
夜も眠れず食欲もなくあんなに落ちなかった体重も急降下で落ちていき体調がどんどん悪くなっていく
休日は一日中布団の中にいた

文字通り血反吐を吐きながら仕事をしていたある日、自分がいるフロアのトイレが壊れて水が大量に溢れるという事件が起きた
しかも勝手に壊れたのではなく誰かが意図的に壊した跡があったのだという

そのときは「そんな反抗期みたいなことをする人がこの中にいるのか…」としか思っていなかったのだが、数日後なんとその犯人が自分ではないかと疑われているということを知ったのである

確かに自分はこのフロアの中で1番トイレに行っている回数が多い
何なら会社全体でも1、2位を争えるんじゃないかというぐらいトイレに行き(血)反吐を吐いていた

しかし仕事中にトイレに何回も行く人間は嫌われる
さぼっていると思われるからだ
そして決定的なのは自分が席を外している間、外部からの電話は他の人がとらなければならないということである
自分の仕事が忙しい中で電話に出る、という仕事はこのフロアで誰もが避けたい仕事だった
だから自分は大いに顰蹙を買っていた

嫌われるのも当たり前である

上司からの「なぜそんなにトイレに行っているのか?」という疑問に対して論理的な説明、もしくはおもしろおかしく返せればセーフになる人間もこの世の中にはいるのだが、
悲しいことに自分にはそんなセンスは全くなく、正直に言ったら首になるかもしれない人として終わってしまうかもしれないという恐怖でただただ、すいません…すいません…と謝罪をするだけなのであった

そんなこともあって、「仕事ができない上にコミュニケーションが取れないさぼりがちで電話にも出ないいけ好かないアイツが何か分からないけどトイレを破壊しやがった」という噂が流れ、自分は退職を決意した 

最初は、最低な考えだが会社をばっくれようかと思っていた
(ばっくれる人が多発する謎の周期があって上司が怒り狂ってその人たちのデスクの電話線を引きちぎっていたのを見たことがある)
しかし家に帰って床に寝転びかわいい猫形の壁のシミをじっと見てるうちに冷静になり、人としてそこだけはちゃんとしようと思える様になった

退職したい旨を告げた日の仕事中、自分の目の前を横切る、最後に渡されるであろう花束の集金袋をちらりと見てそしてキーボードを打つのを再開した


出勤最終日、退職の日
いつもと違うのは残業がないこと
あのときに集められたお金で買ってもらった花束を手に自分は会社を後にした

昔、友人が「大学を退学したら空が高く見えたって言ってたのってビートたけしだっけ?大の方だっけ?」と言っていたことを思い出してふと空を見上げるとうっすら夕焼けの空はとても高く見えた

そこから自分は花束を持って踊りながら帰った
身体が軽くて今にも飛べそうだった
ふと焼肉を食べに行こうと思った
退職を決めてからというもの血反吐の量がぐっと少なくなり、有休消化の名目で2日間休みを貰えたので病院で検査を受けて薬を飲んだらずいぶんと良くなった

くるくる回りながら、大は明治大学卒業してるからそれを言っていたのはたけしの方じゃないかな、サッチン、と頭の中で友人にテレパシーを送った

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?