それさく文庫書影

「曽呂利」「某には策があり申す」ライナーノーツ⑧千利休 石川五右衛門

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 はい、今日のライナーノーツは千利休と石川五右衛門ですよ。

 千利休
 曽(〇)   某(×)   孫(×)

 石川五右衛門
 曽(〇)   某(×)   孫(×)

 まずは千利休です。
 実は利休さんは「安土唐獅子画狂伝 狩野永徳」(徳間書店)にも狩野永徳の前に立ちはだかる最大の敵役として登場します。そして、わたしの頭の中では絵の鬼狩野永徳と美の巨人千利休との骨肉相食む大乱が……というイメージでいるのですが、「曽呂利」においてはやや精彩を欠いた姿で描かれます。
 実は、「曽呂利」での利休さんはライバルである狩野永徳に死なれてしまい気落ちしているという設定です。好敵手のいなくなった後、ふっと肩の力が抜けてしまったところに曽呂利新左衛門が忍び寄ってきたというイメージで楽しんでいただけましたら幸いです。
 ちなみに、黄金の茶室が秀吉と利休の対立の原因という説がありますが、わたしは「曽呂利」においてそれを用いませんでした。単純に秀吉が無風流、利休が数寄者として描いてしまうといかにも秀吉が小さく見えてしまうからです。黄金の茶室というのは、それはそれである種の美意識に裏打ちされたものであるという図が書きたかったのです。

 お次は石川五右衛門です。
 この人物については史実と伝説の間を行ったり来たりしている観もあるので、わたしもかなり自由に書かせていただきました。「曽呂利」を書いた頃のわたしは歌舞伎などで形作られた筋書きや人物造形はできる限り排除する方向だったのですが、今にして思えばかなりもったいないことをしたなあ、と反省している次第です。書き直したときに過去作品のイメージを取り入れることも考えたのですが、「曽呂利」のお話との整合性にかんがみ取りやめた経緯もあります。
 本作における五右衛門さん、相当活躍してくれました。「曽呂利」は当初はある人物を意のままにする「操り」的な面が色濃かったのですが、石川五右衛門の章から前後して、豊臣政権内部の獅子身中の虫探しへと変化してゆきます。ちょうどその汽水域にあり、その二つの要素を繋げるのりの役割をしてくれたと思っています。
 なお、この石川五右衛門をこねくり回すうちに誕生したのが、「しゃらくせえ鼠小僧伝」(幻冬舎)の鼠小僧次郎吉です。本人は別の意図があったのに、庶民の期待を浴びてヒーローになってしまった、というあたりの屈託などはまさしく五右衛門から引き継いだ要素になってます。

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