「余命10年」にまつわる思い出
このところ「余命10年」という映画が流行っている。おれの友達でも沢山の人がインスタに映画のチケットの写真を投稿していて、あー映画やってるんだ、と思う。
あー映画やってるんだ、という言い方はさもおれが原作を知っているかのような言い方だが、実際おれは原作を既に四年前に読んでいる。
高一の頃文庫版が書店に山積みになっていて、詳しい経緯は覚えていないけれどとにかくその衝撃的なタイトルと、表紙の女の子のイラストに惹かれて買ったのだと思う。それで実際に読んで本当に感動して、読書感想文を高一のおれは「余命10年」で書いた。どんなことを書いたかは全く覚えていないけれど。
同じ頃、国語の授業でビブリオバトル的なものがあった。初めに四人ずつでグループになり、グループの仲間に本を紹介して、一人一票ずつ一番読みたくなった本に投票し、一番票を集めたグループの人が代表として、今度はクラス全体にその本を紹介する。そのあとクラス全体での投票があって、クラスで一番多くの人にその本を読みたいと思わせた人が優勝である。おれはそこでこの「余命10年」を紹介し、結果的にそのビブリオバトルもどきで優勝した。普通に嬉しかった。今になって思えば高校生活の三年間でおれが最も輝いていた瞬間だった。
とはいえ所詮は授業でやっただけにすぎない。クラスメイトだって、授業である以上どれかは選ばなければならないからなんとなくで選んだだけかもしれない。あの時一番読みたい本に、おれの紹介した「余命10年」を選んだクラスメイトの中で、実際に買って読んだ奴が何人いるというのだ。一人いれば良いとさえ思う。というか普通に考えて一人もいない。
で、結局何が言いたいのかと言うと、おれは「余命10年」の映画が好評なことが勝手に嬉しい。なぜなら映画が売れることで、原作も売れるからだ。おれに勧められたからと言って原作を読もうという気になる奴はおそらく地球全体をくまなく探しても一人もいないが、映画を見て感動してくれた人たちならば、きっと原作も手に取って読んでくれるに違いないのだ。現に友達の何人かは、映画見た後で原作を買って写真をあげている。
漫画やアニメが実写化する、と言うだけで悲鳴があがる世の中である。そもそも「余命10年」は小説だが、それが漫画であれアニメであれ小説であれ、実写化が神がかった出来ならば原作も良いに決まっているのだ。この映画がきっかけとなって、あの素晴らしい原作がたくさんの人に読んでもらえることを勝手に願っている。
そういうおれはまだ映画を見ていない。映画しか見ていない人間に原作を読むことを勧めるならば、原作しか読んでいない人間は映画を見ることが筋だと思うし、あの素晴らしい原作の映画が好評となれば見ない訳には行かないので、近いうちに映画館に行くつもりである。一人で。気が向けば感想もここに書く。