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8月末の鎌倉、七里ヶ浜は家族や友達と遊びに来た人々で溢れていた。僕は浜辺に接した道路脇にある柵にもたれかかって、海とそこにいる人たちを見ていた。段々と青かった空が紫と黄色に変わり始めていた。少し視線を左にやると、遠くには等間隔に並んだヤシの木と古いホテルが見えて、夕焼けと重なるととても綺麗だった。米粒のような車がスーッと動いている。

浜を二つに割るように細い川が海へ流れていて、その脇には川を挟むようにアスファルトが敷かれていた。

そのアスファルトをなんとなく見ていた。ただなんとなく。

1組の男女がいた。仰向けになって、肩をふれあい、手を繋いでいた。


夕日に照らされ、風が通り過ぎた時、
無性に泣きたくなった。不思議と涙が止まらなかった。


美しいと思った。

また空を見あげる。段々と色が変わり流れていく雲を目で追う。気づけば人もまばらになって、すれ違う人の数が多くなっていた。浜辺に流れる時間はどんな場所のものより長く濃い。

なんで好きなものほど手に入らないのかな。


やとわ (2021年10月)

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