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歴史を受け継いだ、言葉のチカラ<前編>

心を込めたものや経験、場所などについてお話をうかがう連載『ココロ、やどる。』。今回は、ラジオナビゲーターの小林拓一郎さん、通称「コバタク」さんです。名古屋のFMラジオ放送局「ZIP-FM」で軽快なトークをし、愛するバスケットボールではBリーグや国際試合で会場を盛り上げる。そうした声の仕事とは別に、日常の街の中にある「居場所づくり」にも取り組んでいます。前編は、その活動で大切にしている、場所や建物の歴史を受け継ぐ想いを、語ってもらいました。


ブドウ畑をバスケコートに

コバタクさんの地元、愛知県豊川市。豊川稲荷から車で東へ約10分の、畑が広がる風景の中、2020年にオープンさせた無料のバスケットボールコートがある。
「ここをつくるとき、いちばん初めに決まっていたのは名前でした」
名前は『グレープ・パーク・コート』。かつて、ここはブドウ(グレープ)の畑だったからだ。

グレープ パーク コート。「グレパー」(愛知県豊川市土筒町河原2‐2)

「僕が生まれる前年の1978年におじいちゃんがこの土地を買って、ブドウづくりを始めて、その後は母親がメーンになって巨峰を育てていた。小林家の歴史が宿る場所です。
父親が亡くなった時に手放そうかという話が出て、昔からぼんやり考えていた『だれもが、特に子どもたちが、自由に使えるバスケットコートをつくりたい』という夢が頭をよぎり、大きくなった。『売るなら、あの畑を俺にちょうだい、コートをつくるから』と母親に伝えたのは49日法要の前夜でした。
そこがスタート。発想が生まれて、『グレープパーク』って名付けたい、この場所の歴史はだれも買えない、ここにしかないものだから、と考えたら、構想がするするっと分かりやすくシンプルになった」

ブドウ棚の柱の撤去作業をする小林拓一郎さん(左、本人提供)、更地となり「コートを造るぞ!」とポーズ(右)

薬局だったビルでカフェ

巨峰をイメージさせる薄紫色のコート1面に、運営費用の収入源と管理棟を兼ねたカフェを備えてオープンした。発想から約2年。その間にもうひとつ、街の「居場所づくり」に挑戦した。
名古屋市中区で2019年7月に開業したコーヒー店『ファーマシー・コーヒー・ラボ』だ。自然と人が集まる街の「ハブ」(中核、集約点などの意)にしたいと考えた。

ファーマシー コーヒー ラボ(名古屋市中区千代田3‐4‐3)

「お店が入っているビルはかつて薬局(ファーマシー)でした。ハブをつくる実験をする、研究室(ラボラトリー)みたいな場所。そこの歴史とか地域で培われたものを大事にしたいっていう気持ちもあるし、そうでないとたぶん街のハブにつながらない。
それに、アメリカのポートランドに、カール・ファーマシー・スケートボード・ショップだったかなあ、そんな名前の店があることを本で知って、調べたら、カールさんが『親父が薬局やってたから、そのまま付けたんだ』って。10年くらい前に知った話だけど、そういう名前をつけるセンスってかっこいなあって思っていたこともあったんですよね」

「変わり者の街」の価値観

そのショップがあった米北西部のポートランドは、コバタクさんが高校卒業後に留学したオレゴン州の中心の都市。大学卒業後の2013、14年に人口動態調査でトップの移住地となり「住みたい街、全米№1」になった都市だ。

グレーパーのカフェで語る小林拓一郎さん

「元々、ポートランドは『変わり者の街』って言われていました。アメリカで車社会が本格的にやってきた1960年代、街のど真ん中から駐車場をなくして憩いの場をつくり、高速道路建設に市民運動で反対して親水公園をつくった。近年、SDGsとか、多様性とかが言われるようになりましたが、早くからそういうことをやっていたんです。
アメリカの多くの街がビルを新しく建て替えている時に、ポートランドでは、この朽ちてきているいい感じやサビは買いたくても買えない、壊しちゃったらだめだ、あるものを大事にしていく、お金をかけりゃできるものなんてだれでもできる、そこにしかないものとかストーリーがあるものに対してみんなが惹かれる、って考える。
『変わり者であり続けよう』っていう街の標語をつくって、風潮に惑わされず、自分たちの価値観を大切にする。そんなポートランドに影響を受けて、体にしみ込んでいるんでしょうね」

後編につづく>

グレパーのカフェの中で

小林拓一郎さんの経歴 ラジオナビゲーター。ZIP-FMで『Blissful Time』(ブリスフルタイム。意味は「至福の時間」。月~木曜の午前11時30分から午後2時)を担当。愛知・国府高から米オレゴン州立大へ進み、エスニックスタディーズ(民族学)を専攻。在学中に学内ラジオ局のDJを務める。卒業して帰国後、2004年の第11回ZIP-FMミュージック・ナビゲーター・コンテストでグランプリを受賞し、2005年春からZIP-FMで番組を持つ。中学時代からバスケットボールに熱中し、実業団の強豪アイシン(Bリーグ・シーホース三河の前身)に自ら売り込んで2006年から会場のアナウンスを始め、シーホース三河ホームコートMCを務める。1979年、愛知県豊川市生まれ。「豊川広報大使」に任命されている。


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