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ショート・ショート

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往復小説を除くショート・ショート作品を纏めております。ショート・ショートの魅力は短時間に書ける(読める)、色々なジャンルが出来る、エッセンスが凝縮される等、独特なものがありますね。
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#マガジン

short‐short:普通の形

 手を伸ばしている若い男性が視線に入った。  スーパーのペットボトル・コーナー。  視線はその二段目。  見ると、セール中とある。  彼は悔しそうに顔を歪めた。  車椅子だ。  腰を浮かし、支える手が震えるほど再び伸ばす。  届くことは無さそうだ。  彼はぐったりと車椅子に身体を預けた。 「これですか?」  声をかけた。  セール品のお茶、五百CC。  彼は驚いたように目をパチクリさせる。 「あれ、こっちでしたか?」  隣のペットボトルに手を伸ばす。 「いえ!・・・お茶の方で

ショート・ショート:ヒーロー

ある晴れた朗らかな日曜日。 道を歩いていると少年は力を得たと実感した。 花粉症に耐え抜いたご褒美だろうか。 理由はわからない。 実感としてある。 でも、少年は慎重だった。 今の力をもってすれば、くしゃみ一つ、放屁一発で町を破壊出来そうな感覚があるからだ。 「力ある所に責任あり。」 何かのアニメで聞いたことがある。 まず辺りを見渡す。 超感覚で一瞬で把握出来た。 (凄い!!) 同時に怪人はおろか怪獣もいないことがわかった。 困った。 大いなる力を発揮

ショート・ショート:少年の夢

 夕暮れ時、風をきる音。  息が白い。 「またやってる。」  呆れたような声。  少年がバットを振っている。 「ご飯できてるからね。」  疲れた顔の若い母親。  意図せず彼女は侮蔑的視線を向ける。 「うん。」  少年はバットを振っている。  彼女は舌打ちをした。 「才能がない。」  コーチから言われた。 「自分に合ったものが他にあると思うぞ。」  監督に言われた。 (わかっている。)  気持ちがいいんだ。  野球が。  理由はわからない。

ショート・ショート:振り返る闇

ある村で化物が話題になっていた。 闇夜に紛れ、神社へ向かう山道の石段を登るという。 「食われちまうぞ。近づかない方がいい。」 噂はあっという間に広がる。 ある日、諸用で遅くなった村人がその場所を足早に通り過ぎようとする。近道だった。 「こわやこわや」 何かに気づき足を止める。 硬いものが石を叩く音だ。 音は次第に大きくなる。 コツ、コツ、コツ。 全身が硬直する。 大きな闇が石段を登って来た。 恐怖に顔を歪め村人は息を殺す。 闇は登りかけたが足を止める