プレゼン本に書いていない生々しい8つのプレゼン技術のご紹介(前編)
さて、ふとしたきっかけがありまして、「そういえば、自分がこれまで接してきた、スゴいプレゼンター、プレゼンの技術というのには、どんなものがあるのだろう?」という内容を、じっくり考える機会に恵まれました。
そこでリストアップされた要素を集約すると、下記の8点。
1:東大教授も提携先事業部長もこれで攻略|プレゼン相手の心配事とキレるポイントを妄想してプレゼンを脳内シミュレーションする
2:一般論での「良いプレゼン」とかガン無視して、結局終わったあとに何が得られればOKなのかを、P&Gフレームで考える
3:自分だけが経験し、そして感情が動いたコンテンツを生成し・記録し・再現可能にする
4:官僚の大臣レクを手本とした超高速プレゼンで、相手の脳みそ難易度を高める
5:プレゼンそのものを叩かれ台にして議論を巻き起こし、最終結果を協働成果にする
6:「神業めくり」で、映画のような強烈なストーリーを叩き込む
7:Start with 青臭いWHY
8:優しい目線の時代
これらを見返してみると、大半の内容は、普通のプレゼン本などでは紹介されておらず、自分が大学生や社会人初期のうちに知っていたら、何かと面白いことにつながっていただろうなあ・・・などと妄想が広がったため、こちらにご紹介させていただきたいと思います。
なるべく、生生しくイメージができ、実際に活用できるようにと書いたため、長文となってしまっておりますが、具体的なエピソードなどが織り交ぜられていますので、ぜひ楽しみながらご一読いただければと、思います。
1:東大教授も提携先事業部長もこれで攻略|プレゼン相手の心配事とキレるポイントを妄想してプレゼンを脳内シミュレーションする
生涯に渡るプレゼン経験の中で、最も怯えていたのは、東大院生時代の、研究室でのプレゼン。
とにかく、自分も、他の研究室のメンバーも、週次で当番が巡ってくる、指導教官の前での発表が憂鬱で仕方ありませんでした。
まあ、一言でいえば、ボコボコ?(笑)
ひとたび発表中に教授が怒りだすと、もうそこから回復は不能。厳しい指摘の連続でけちょんけちょんにされたあとは、お互いに夜の飲み会で傷を癒やし合うということが繰り返されていました。
この状況をなんとか避けたい、打たれ弱い自分としては、決して罵倒とかされたくない、と必死になって考え、やがて「けちょんけちょんにされることない無敗記録」へとつながるようになったのが、「教授のキレるポイント」探しというアプローチでした。
自分が発表を行わない週、よくよく血祭りに上げられる同期を見ていると、そのポイントは、以下のように集約されることに気づき始めました。
■卒論や修論のゴールに向けてのつながりが最初の3分で理解できない
■新しい要素・進捗がよくわからず、前回と似たような内容になっている
ああ、なるほど、と。要は、教授としては「こいつがちゃんと卒業できない、時間切れになる」ということと「研究室として新たな発見を生み出せない」という2点が、何よりの心配事だったわけです。そして、東大の教授の大半はそうだと思うのですが、基本めちゃくちゃせっかちなので、これらが最初の3分くらいで出てこないと、切れちゃうという構造。
これ以降、一部の突発事件を除いて、教授からキレられることが激減したのは、個人的なプレゼン人生、最初の勝利です。
そしてときは流れて、10年程。ライフネット生命で新規事業に従事していたとき、協業相手の某社の事業部長と毎週定例会議で議論していたときのこと。
これまた、軽くキレられます。
自分「というわけで、こういう感じで事業の組み立てをするのは、リーズナブルだと思われます」
事業部長「リーズナブルって、なんやねん!(怒)」
おお、なるほど・・・。普段は非常にジェントルで温厚な事業部長、およそ指導教官とは違うわけですが、この方をキレさせたのは「判断基準があいまい」である点でした。
このとき取り組んでいたのは、この事業会社との間で、保険販売の新規事業を立ち上げるという内容。
この事業計画について、最終的に先方として事業投資を行うかどうかを検討するにあたり、いくつも抑えるべき点があり、それらをすべてカバーし、投資GOをするかどうかを起案し、全社でのジャッジへと進めるのが、前出の事業部長の仕事でした。
そこでの心配事とは「当社(=先方)として新しいチャレンジである保険事業について、果たしてツッコミどころ、危ないところも含め、すべて抑えているかどうか。後で漏れがあったら、大失態だし、会社として大きな問題になる」という点にありました。
そこを、四六時中、保険関連の事業立上げばかりやっていた当時の私としては、暗黙理に脳内で、「募集人の教育体制OK」「金融庁の監査が入る対象領域OK」「バックオフィス管理とデータの保持に関する体制OK」・・・などがあり、それらを自分だけ解っている状況で、安直に「リーズナブルです」(まあ、今思えばその表現もなかろうと思いますが・・・汗)と言ってしまったわけです。
というわけで、このときの事業部長とのやりとりから、以降「生命保険領域で心配になる点をフレームで整理し、そのフレームに沿った進捗線表を描くことで、論点が明確になり、心配事が進捗会議を通してきれいに解消されていく」という流れで毎週の議論が行われるようになり、無事にサービス開始にこぎつけることができました。
これらの教訓から思うのは、
■相手のニーズを知るのは難しいが、相手がキレるポイント・相手が心配するポイントは比較的簡単に見つかる
■なので実は、激情型の人の方がプレゼンを通して仕事はしやすく、温厚型の人の場合は、周囲を含めたヒアリングや雑談で、心配ポイントを見抜く手間がより多く必要になる
といった点です
2:一般論での「良いプレゼン」とかガン無視して、結局終わったあとに何が得られればOKなのかを、P&Gフレームで考える
さて、私の最初のキャリアはP&Gという会社なわけですが、ここの出身者とその後、仕事でたまたま出会うと、「で、この会議のObjective(目的)は?」という話が必ず出てきて、ちょっとウンザリします。なんとも言えない、過去が思い起こされまして・・・
というくらい、とにかくP&G時代は、すべての所作を行うときに「結局、目的てなんなんだっけ?」から逆算することを痛い程、意識させられました。
ところがこの習慣は、後々になってから非常に役立つようになります。
ライフネット生命の立上げ初期、自社での販売だけでは件数が伸びないため、様々な保険代理店に交渉しては、ウェブサイトにライフネットの商品を掲載してもらえるようプレゼンをしている時期のこと。
当時から、ライフネット生命の販売手数料は、笑えるほど低く、代理店各社からも、笑って交渉を切り上げられるようなことが少なくありませんでした。
そこで、プレゼンの目的を「代理店契約を締結すること」から「なんかしらないけれど、ライフネット生命ってすげーな・・」と印象を持ってもらうことに切り替えます。
最初にこれで「先生ポジション」をとり、そこから数回やりとりを繰り返し、こちらの意図や独自性を知ってもらい、「付き合って損はない」と思ってもらって契約するという流れに切り替えたわけです。
この作戦は大当たり。決して、最初のプレゼンで保険料や経済条件の話、契約して欲しいということは言わず、ひたすら、自分たちが得意としていたマーケットの分析、消費者の方々の不満、これからテクノロジーで実現できそうな世界などを語り、質疑応答。こちらからは、代理店契約の話を切り出さず、次につなげるというようなことをしていました。
これらを基にして、いつも、いまでも使っているのは、以下のようなフレームワークです。
===プレゼンをObjevtiveから考えるフレームワーク===
■対象者は誰か?
■その人に、交渉終了時点でどうなって欲しいか?(=Objective)
まずはこの2点を、しっかりと書き出します。書かないと、自分の脳内で都合よく処理してしまうので、しっかり書き出すのが重要です。
で、その次に、
■その相手を、その状態に持っていくためには、どんな内容・ストーリーにするべきか?
と考えていくのです。こうすると、先程のライフネットのケースであるように、驚くほど通常とかけ離れたプレゼンがつくられるようになります。
===フレームワークここまで===
そして、「人の脳は、想定とは違う内容であるほど、ドーパミンが分泌され、活性化する」という法則(詳細は、こちらの記事を参照 https://mirai.doda.jp/theme/neuroscience/emotion/ )がここで発動され、もれなくプレゼン内容は、よりインパクトのあるものとなります。
もし私が、ライフネットとしてのプレゼンで、「生命保険会社が、代理店に行う、一般的なよいプレゼン」をしても、結果がNGになってしまっていたことが、このポイントの証明かなと思います。
かくして、
■プレゼンは、本当の目的から考え、「一般的なよいプレゼン」のイメージをガン無視すべき
ということになるかと思います
3:自分だけが経験し、そして感情が動いたコンテンツを生成し・記録し・再現可能にする
P&Gを卒業した後、転職したのがヒューマンバリューという、組織開発のコンサルテイング会社です。
この会社に意気揚々と転職した私ですが、毎月非常に憂鬱だったのが、今も続くこちらのLO研究会研究会( https://www.humanvalue.co.jp/wwd/research/lob/lo_lab/lo/ )という場での、参加者それぞれによるショートトーク。
この会には、名の知れた大企業の人事部長や、組織開発の領域の著名な研究者・コンサルタントの方々が集まるのですが、まあほんと、呆れるくらい、話が面白くて、引き込まれるわけです。
で、自分の番になり、これまた5分くらいしゃべるのですが、「ああ、つまらん話だ・・・」というのが自分でもよく分かる。いやあ、本当にあれは辛かった・・・
特に印象に残っていたのは、当時から「王子」と呼ばれ、現在はIMDのディレクターである高津 尚志さんの、キレキレトーク。もうね、ほんと、嫉妬するレベルです!
というわけで、この会の過去5年分くらいの逐次議事録をすべてひっくりかえし、何が面白いのかというのを分析した結果、活路が見えてきました。
その答えは
「自分独自の経験」>「権威やデータの話」>「演繹的な話」
というのが、話の面白い順番であるという法則。
具体的にいうと、こんな感じです。
■演繹的な話=「沖縄は日本のアジアの玄関口。一方、最近の中国を初めとしたアジアの経済発展は、目覚ましい。なので、これからの沖縄には、経済発展が見込まれますよね」
■権威やデータの話=「ここ数年の沖縄では、観光客の60%近くが、海外から。その半分を欧米系、もう半分を中国・アジア系が担っているけれど、アジア系の観光客の購買単価は、欧米系の倍にもなっていて、圧倒的に沖縄の発展を支えています」
■自分独自の経験の話=「昨夜、那覇の港の横を空港からタクシーで通過したところ、巨大なフェリーが停泊していて、ガンガンに壁面いっぱいの電飾ディスプレイを出していて”I love NAHA”って出してた。あんなの、横浜でもお目にかかったことがないけれど、タクシーの運ちゃんに聞いたら、中国からのフェリーだとか。とにかく最近は、中国からの観光客の人たちがおしゃれで洗練されていてすごいですよー、と、タクシーの運ちゃんもにこにこ言ってました」
なるほど、そういうことか、と。
そして、その年の夏のこと。このヒューマンバリュー社の当時の社長である高間氏の発案で、私を含めた若手は、2週間ほど、アメリカに組織開発の調査を、それぞれ単独で計画をたて、渡米し、調査を行い、その上で、LO研究会で成果プレゼンをすることとなりました。
このときのプレゼンは、米国での本当に命がけでの調査の数々があったため、大成功。私の披露した中身としては・・・
■カンファレンスで知り合ったIBMの部長がNYに戻ってしまうので詳しく話はできない、となったので、その人がNYのオフィスに戻るタイミングを見計らってTELをして時間をもらい、そこから調査を行った
■アメリカの職業リスト情報を管理するOnetという組織にヒアリングにいったら、ノースキャロライナの非常に古風なアメリカの町で会話をしたが、その周辺は、こうした公的機関が実は密集していて、アメリカの公的機関での組織開発への検討内容がつぶさにわかった
など、調査結果そのものに加え、そこで経験した独自の内容を織り交ぜたため、大喝采をいただくことができました。
で、こうした経験を踏まえ、最近は自分たちで会社を経営しているという立場を生かして、大事にしているのが、
「まともな会社での、まともな稟議では、なかなか通らないだろう海外渡航や調査を行うことで、独自経験を増やす」
というアプローチです。例えば去年で言えば、
■なぜか、フィンランド・エストニアでの海外調査を行うときに、ロシアとの国境近くにある、narvaという田舎町を訪れる
■なぜか、中国でも話題にあまりでてこない、南京や東莞などの都市を、現地での評判を聞きつけて、フラッと調査に訪れる
といったことを試してみました。
こうした取り組みは、その後に様々な情報インプットの源となり、なにより「そんな話、他の誰からも聞いたことがない」
という、強烈なインパクトを生むことができます。
そして、こうした独自の経験を積むときに、セットでポイントとなるのが「そのときの自分が、感情的に揺さぶられたポイント」
を、必ずメモしておくというやり方です。
これは、前出のLO研究会にて、当時の代表の高間さんがトークをしているときに気づいたのですが、とにかく「◯◯ということがあって、私はとても驚きましてね」とか「◯◯というのにショックを受けて、寝込んじゃいまして」など、感情が必ずセットになっているのです。
言われて見れば当たり前ですが、自分の感情を揺さぶった内容は、他の人の感情をゆさぶる可能性も高いわけですし、そこに共感が起きる可能性も同じく高いはず。
というわけで、海外調査などもそうですし、日常経験の中でも、自分の感情を揺さぶられたことは、iPhoneでメモを開き、忘れないように記載しておくことをよくやっています。
例えば最近でいうと、フィッシィングウェアを洗濯していたときに、そのサイズ表記が「アジア=XL、ヨーロッパ=L、アメリカ=M」となっており、「うおー、やっぱアメリカ人、体がでかい!」と驚いたので、それをメモしておきました。これはどこかで、国による体格の違いなどを語るときに、きっと強烈な武器になることでしょう。
画して、ここでのポイントをまとめますと・・・
■プレゼンでインパクトを起こすには、「独自の経験>権威やデータ>演繹的な話」という順序を意識し、なるべく独自経験のストックを増やす
■独自の経験を強力なものにするためには、合理的な判断では体験できないことをわざわざやってみる
■独自の経験をしたときに、感情が揺れた内容をメモで残し、憶えておく
といったあたりかと。
===
さて、1つ1つのポイントが長くなってきたため、ここまでを一旦、前編としたいと思います。
ちなみに、冒頭で触れた「この記事を書き始めた、とあるきっかけ」なのですが、これは実は、私の妻が新卒以来ずっと勤務していたキヤノン・マーケティング社を3月末に退職し、4月から専業主婦になることが、そのきっかけです。
妻が最後にキヤノン・マーケティングにて手がけたのが、こちらの売れ筋プレゼンレーザーポインターなのですが、
この仕事に取り組む妻が、実に楽しそうに、そして名残惜しそうに、この半年ばかり、仕事に取り組んでいました。
この仕事に取組みながら、妻がことある毎にいっていたのが「プレゼンって、本当は楽しいはずだよね〜。今頃、気づいた」という話。
なるほどそうだな、と思い、過去のすべてのプレゼンに関する自分の体験を振り返ってみたところ、今回の内容に至った次第です。
というわけで、今回は前半ということでしたが、引き続き、下記のポイントについて、次の記事にてご紹介できればと思います。
【中編・後編でのカバー項目はこちら】
4:官僚の大臣レクを手本とした超高速プレゼンで、相手の脳みそ難易度を高める
5:プレゼンそのものを叩かれ台にして議論を巻き起こし、最終結果を協働成果にする
6:「神業めくり」で、映画のような強烈なストーリーを叩き込む
7:Start with 青臭いWHY
8:優しい目線の時代へ・・・
それでは!
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なお、この一連の記事に関して「こういうときはどうなの?」「実際にはどうやるの?」といったところでのご質問がありましたら、私のツイッター( https://twitter.com/yasuyasu1976 )までコメントをいただきましたら、後日、記事などの形式でご回答したいと思いますので、どうぞお気軽に。