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京都大学|特色入試 のススメ

これを書いているのは、2022年2月14日。京都大学一般選抜試験日の11日前、特色入試合格発表日の前日である。特色入試の受験者である自分は、今何をしているかというと、11日後の一般入試に向けての受験勉強をしている。どういうこと!

夏のずっと前から散々苦労をして提出資料を用意して、秋口の超絶2次記述試験と緊張の面接試問を乗り越え、正月明けの変態共通テストをくぐり抜けてここまできたのに、一般の受験生と同じ受験生活を現在も続けている。もし明日不合格だったらショックで立ち直れずそのメンタルで一般入試に突入する。もし明日合格していたら今までの受験勉強は全部無駄になる。

京大特色入試の合格発表は一般入試の直前なので、途中経過がどうであれずっと他の受験生と同じだけ受験準備をしないと行けない。ということに最初から気づいていない。進学を早々に決めて、ごめんな同級生たち、と残りの高校生活ブイブイ言わせる計画だった。実際は計画とちょっと違った。特色受験はいろんな準備が大変で、思いっきり通常受験のじゃまになる。それに、特色受験にもれっきとした試験があって、しかも一般入試よりもはるかにやっかいな内容だ。割にあわない。ことに最近気づいた。

特色入試を受けてよかったかどうかは、結果論でしかない。もし明日合格してたら、全部忘れて10日間だけブイブイ言わせる。不合格でも一般入試に受かれば、よい経験だったなと思える。一般入試も両方だめだったら…最悪だ。共倒れだ。チャンスは2倍とか言ったやつは誰だ。苦労が2倍だ。

後悔しないために、出願前に戻ろう。

まず、京大の特色入試は「学校推薦型」の工学部、医学部医学科と23年度からの経済学部を除いてはほとんどが「総合選抜型」なので、本当に誰でも受けられる。学校長の推薦も要らないし、1つの学校から何人でも応募できる。「特色」と言っても、特に特技や突出した才能や実績が応募段階で必須というわけではない。だいいちそんな特殊な高校生がうよういよいるものではない。先生にやめとけと言われても応募できる。学校に用意してもらうのは文科省指定の調査書だけで、他の大学の受験にも提出するので特別なものではない。落ち着きがないとか、そんなことは書いていない。

一般入試で京大を受験する予定がなくても特色入試だけでも応募できるし、最初から京大を受験する予定であればせっかくだからその学部の特色入試にもチャレンジするとよい。失敗しても痛くないし、もしひっかかれば儲けもの。「チャンスは2倍」だ。

応募条件にハードルがあるとすれば、調査書の平均評定が5段階評価で4.3以上という項目だけ。しかし、多くの高校が採用している10段階評価では、6,7を4に換算、8,9,10を5に換算する。そうすると10段階で6以上を取っておけばいいことになるからイケてる人が多いのではないか。もう一つ、応募条件ではないが、特色入試の最終審査は共通テストの成績で行われる。これには絶対的な基準があって、学部によって得点率が75%、80%、85%以上などと決まっている。京大や東大を受験する人は共通テストでは90%以上を目標とするから、さほど高いハードルではない。突出した人生の実績があってそれを武器に応募する場合は、それまでの成績はさほどでも、共通テストまでは時間があるから十分挽回できる得点率だ。あと学部によっては応募時に英語の民間検定の資格が必要になるがこれも英検2級とかごく普通のレベルだ。

むしろここで注意すべきは、特色入試の出願は3年生の途中なので、2年生までに成績を確保したり、必要な検定資格をとっておかなければならないことだ。3年になってから定期テストを頑張っても、英検を受けても間に合わないことがある。高校に入学したときから、一般教科はもちろん体育や音楽や家庭科などの実技も頑張って通信簿の評価を確保しよう。

特色がなくても特色に応募できると書いたが、何も書けるものがないのではさみしい。大丈夫、作ればいい。特色入試のために、生徒会長や部活のキャプテンに立候補するのはアリだ。検定試験や資格に片っ端から挑戦するのもよい。放浪にでかけたり、オタク活動に力を入れたり、バーチャルスポーツ(TVゲーム)に挑戦したり。誰だって好きなことや打ち込んでいることはあるはずだ。人に言うほどのことでもというのを全部書けばよい。書いた経験や資格は、面接で必ず突っ込んでもらえるから話のタネになる。甲子園出場経験と書けなくても、甲子園を目指して頑張った、と書こう。雰囲気は一緒だ。

提出物について、もう少し詳しく。学部によって異なるが、中学以降の自分の記録を提出する。何を書いてもよいが、プルーフをつける必要がある。全国大会に出たら写真や賞状、資格は認定状、発表した論文やパワーポイント書類、コンテストなら映像や音源のDVD、等々。これらを一つのバインダーにまとめてインデックスをつけると、かなり分厚い自分史ができる。その自分史に加えて、志望動機、学習計画、将来設計などを提出する。

なぜ京都大学じゃないといけないのか?なぜその学部なのか?なぜ私なのか?その理由。入学した暁には大学でこれとこれとこれを突き詰めたい。しかるのち卒業後はこんなことやこんなことを成し遂げる所存である。それぞれをかなりの文量と熱量で語らなければならない。実際の学部のカリキュラムやコースの存在、教授の著作などを知っていないと書けない。それができたら、学校が用意してくれた調査書を加えてやっと提出できる。調査書には3年途中までの通信簿の平均点と学内順位とちゃんと卒業見込みであることが記載されている(封印されているので見れない)。

提出物を用意する作業が大変だと分かってもらえると思うが、そもそも何を書くかを決めるのにおそろしく時間がかかる。春休みや夏休みの間中考えていたり。そして、書いたものが妥当かどうか、分かりやすく書けているかという第三者のチェックも大切だ。大人はそれぞれ勝手にいろんなことを言う。意見はありがたく聴いておこう。そもそもたかが高校生に大学で学びたいことや将来何をしたいかなど分かるはずがない。上手く書けているはずがない。

ちなみに提出物は(添付資料を除いて)すべてボールペンの手書きと決まっている。パソコンで原稿は完璧に仕上げていても、清書に数日は見ておこう。初日は途中まで書いて失敗してわーと叫んで放り投げる繰り返しだ。ぎっしり書いたページの最後の方で失敗したら、わーでは済まない。

さて提出物による第一次審査に無事通ったら、筆記試験、論文作成、面接、口頭試問などの二次審査が待っている。いずれにしてもその学部オリジナルの内容になるので、学術的に出されそうな分野(テーマ)は特定できる。特定できるということは準備ができるということで、専門書籍を買い込んで付け焼き刃の勉強をしたり、想定課題を作ってそれを論文や口頭で発表する練習をしたりする。試験で提示される資料が全部英語の場合もあるのでその覚悟も必要だ。というわけで、一般入試や共通テストとは別な準備にしばらく時間を取られることになる。

面接では、その場で示された課題に対して、口頭で意見を述べたのち質疑応答を繰り返す口頭試問が行われる。前日に行われた数学問題の解き方が試問の対象になることもあるので、紙の試験が終わったと安心していてはいけない。試問とは別に、提出した書類の内容をもとに大学でやりたいことを改めて聞かれたりする普通の面談もある。自分史の内容は必ず突っ込まれる。面接官は大勢なので、誰かじら興味を持って質問してくれる。将来の目標をそれっぽく上手く仕上げていても心が入っていないとバレてしまう。こういう研究をしたいと具体的なことを書いたのはいいが、面接の相手はその研究の第一人者かもしれない。

二次審査の利点は、大手を振って京都旅行ができること。大学も実際に見られるし、目指す学部の教授に会える。その気になれば特色試験仲間と話をして友達になれる。一般入試会場で出会いませんように。

ふう、ようやく二次審査が終わった。

二次審査から共通テストまでの流れは学部によって大きく異なる。理学部数理科、教育学部、農学部などは事前に二次審査の合否発表があり、最終審査として共通テストが課せられる。二次審査合否の意味も学部によって異なり、定員人数だけを合格させて共通テストは当然全員大丈夫でしょうというところと、定員より多くを合格させて共通テストでさらに篩にかけるところがある。その他の学部は二次審査の合否発表はなく(あるいは共通テストのすぐあとに発表され)、指定取得率をクリアしたもののうちから、二次審査までの評価順位で合格者が決められる。全学部において、いずれの場合も2月の一般入試の直前まで最終結果は分からない(共通テスト直後に最終発表のある医学科と後期試験の法学部を除く)ので、経過に関わらず一般入試の勉強を普通に続けないといけない。

書類審査で落ちてしまえば、もう迷うことはない。特色入試のことは忘れて一般入試に集中すればよいだけの話だ。ところが多くの学部では書類審査はほとんど通ってしまうので、いやでも二次審査に進んでしまう。さらに、二次審査の結果は共通テスト前に発表されないから、結局多くの特色出願者が一般入試の直前まで(期待度の差はあれ)どっちつかずの精神状態で過ごすことになる。これをWチャンスと捉えられる人はすばらしいが、それ以外の人は特色入試はもうなかったことにして一般入試に備える集中力が必要だと思う。

共通テストについて。特色入試の共通テスト合格基準(8割の場合は900点満点中720点)は京大を目指しているものにとっては楽な数字だと書いたが、たとえ模試では取れていても現実に一発勝負で問題傾向が定まっていない共通テストで緊張の中でそれを取り切る、9科目全部に得手不得手なくまんべんなく8割を取り切るのは、よほどの努力と自信と精神力と集中力がないと実現できない。22年度はちょうどオミクロンの出現と共通テストとが重なって、濃厚接触者の疑いだけでも受験が認められないという騒ぎだったので、学校に行くのも怖かったり、家族ですら疑心暗鬼になるような状況で、とにかくテスト当日に現場に行けますようにという気持ちだったのに、自転車で永遠に道を往復している男が出てきて、平均点が50点近く下がる伝説の共通テストとなった。平均点が下がっても、特色合格の何%以上という絶対基準に変わりはない。

これは、最初に書くべきだったが、これまでここに書いたような情報は、すべて京都大学ホームページの特色入試というコーナーに超詳しい資料として揃っている。応募要項、出願と審査日程、出願方法、選考基準、選考実績、二次審査の過去問、提出書類のPDF、特色入試を案内するビデオなど何でもある。まずは、そこからスタートしてほしい。

個人の特色受験記もネットで多く見られるが、自慢話なのでむかつくこと間違いない。具体的なことが聞きたい場合は、実績のある学校なら先輩がやってきて直接経験したことを教えてくれるはずだ。二次審査の紙テストと小論文課題は京大のサイトに過去2年分が載っていてダウンロードできる。心配なのは面接内容だが、実は、二次審査を受ける時点で、学校から面接試問の形式、内容、雰囲気を詳しく記載して提出するようにと用紙を渡される。この用紙は学校を通じて予備校に集められ、そこで資料としてまとめられる。共通テストの自己採点結果を学校に提出して予備校が集計するのと同じ仕組みだ。だから学校に言えば過去に該当学部の面接を受けた人たちが残した資料を予備校から取り寄せて見せてもらえる。京大の先生たち(面接官)は優しかった、と複数の資料に書かれていてほっとしたのを覚えている。

現実問題として、特色の願書に記入することを作るために、無理やり学校の実行委員になったり、資格試験を受けたりするのは狂気の沙汰だ。委員の仕事は毎日大変だし、資格を確実に取るためには一時的にでも猛勉強する必要があるので、通常の学校や受験の勉強はおろそかになる。本末転倒もいいところだ。まあ、それでも、実行委員の経験や資格取得の努力がいい思い出になったりもする。

それで自分はどうなったかって? 知らないよ。

発表の前日にこれを書いてるんだから。

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