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楽譜のお勉強【98】ジャン・フランセ『6つのプレリュード』

本日はフランスの作曲家ジャン・フランセ(Jean Françaix, 1912-1997)の音楽を読んでいきます。フランセは洒脱で闊達、パリジャン風のエスプリ溢れる作風で知られる新古典主義の作曲家です。なかなかの多作家で、200以上の作品を残しました。世界的にとりわけ演奏されているのは、『木管五重奏曲 第1番』でしょう。次いで『木管四重奏曲』や『木管五重奏曲 第2番』も取り上げられる頻度は高いです。フランスでは伝統的に、パリ国立高等音楽院を中心にお洒落な管楽器のための音楽が次々と作曲されてきた歴史があります。フランセの管楽器作品もこの流れの中で人気が高いのかもしれませんが、フランセは別に管楽器の音楽ばかりを中心的に創作していたわけではありません。その創作は多岐に渡り、多くの協奏曲、管弦楽曲、様々な編成の室内楽、ピアノ曲、声楽曲、オペラなどを残しました。本日は彼の『6つのプレリュード』(«Sei Preludi» per orchestra a corda da camera, 1963)を読んでみたいと思います。

『6つのプレリュード』は弦楽合奏のために書かれており、それぞれの楽器の数が厳密に指定されています。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがそれぞれ3人ずつ、ヴィオラとチェロはそれぞれ2人ずつで、コントラバスが1人の11人編成です。基本的にはそれぞれがソリストの扱いですが、響きのバランスを取るため、楽章によっては1人ずつしか弾いていなかったり、複数人で一つの声部をユニゾンで弾いたり、さまざまな合奏形態が採用されています。6曲のプレリュードは、第1曲から第5曲まで切れ目なく演奏されることが想定されています。

『6つのプレリュード』は弦楽合奏のために書かれており、それぞれの楽器の数が厳密に指定されています。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがそれぞれ3人ずつ、ヴィオラとチェロはそれぞれ2人ずつで、コントラバスが1人の11人編成です。基本的にはそれぞれがソリストの扱いですが、響きのバランスを取るため、楽章によっては1人ずつしか弾いていなかったり、複数人で一つの声部をユニゾンで弾いたり、さまざまな合奏形態が採用されています。6曲のプレリュードは、第1曲から第5曲まで切れ目なく演奏されることが想定されています。

第1曲は「アペルトゥーラ Apertura」と題されていており、「オープニング」というような意味合いです。ヴァイオリンの下行音階から始まり、8分音符刻み主体の快活な主題を、16分音符の流麗な分散和音が支える音楽になっています。主題は3音の同音連打に続いて長い音価と短い音価の刺繍音が緩やかに動きをもたらし、ゼクエンツで展開していく作りになっています。最高音の主題を担当する楽器は第1ヴァイオリン3人の全奏に、第2ヴァイオリンの第1奏者が加わる4人体制で、第2ヴァイオリンの第2、第3奏者は同様の8分音符刻みを、主題の下方の三和音構成音を密集配分で担当します。伴奏に用いられるアルペジオはヴィオラとチェロがそれぞれ1人1パートで担当しますが、ヴィオラの構成音はヴァイオリン群が担当している音とほとんど丸かぶりしています。細かく動き続ける分散和音と主題の構成音が混ざってしまわないように、主題をとりわけ厚く楽器の数を重ねていることが分かります。主題の内部で不思議なトレモロが行われているような幻想的な響きを作り出しています。曲は概ねシンプルな語り口で大きな変化なく続きますが、最後にチェロのハーモニクスが高音主題となって、響きを変えてくるあたりがお洒落です。

第2曲は切ない「エレジー Elegia」で、「チェロ独奏のための」と副題が書かれています。ただし、完全なソロではなく、弦楽合奏の伴奏を伴うチェロ曲となっています。フランセは緩徐楽章で非常にしばしば5拍子を用いますが、この曲集で現れるいくつかの緩徐楽章では用いていません。「エレジー」は6/8拍子で書かれていますが、伴奏パートはほとんど常に3/4が鳴っており、コーダを除く全編がヘミオラのリズムになっています。チェロの独奏を際立たせるため、伴奏の書法は慎重で、第2ヴァイオリンの第3奏者とヴィオラ2人、そしてチェロの第2奏者がチェロ独奏(第1奏者)に寄り添うようにコラールを奏します。コントラバスも3拍子を奏しますが、1人だけ裏拍取りで、曲がもたつくのを防いでいます。途中から対旋律として第1ヴァイオリンが高音で入ってきますが、主役を奪ってしまわないように弱音器をつけて、慎重にバランスを調整しています。曲の最後は続く「スケルツォ」を予見するかのように、第1ヴァイオリンが旋律を引き継ぎ、16分音符中心の細かく動く旋律を少し提示します。

第3曲の「スケルツォ Scherzo」は疾走する16分音符による3/8拍子が小気味よい音楽です。中間部で第2ヴァイオリンが主旋律をトゥッティで引き継ぎますが、この旋律は実質6/16拍子で書かれており、3拍子を維持する他の楽器がピツィカートとスピッカートの響きになることと合わせて、効果的なヘミオラを聴かせています。

第4曲は「ドイツ風のインテルメッツォ Intermezzo alla tedesca」で、「コントラバス独奏のための」とされています。こちらも第2楽章と同様、弦楽合奏を伴うコントラバスの曲ですが、大きな違いは、実際に完全な独奏部分が数箇所登場することです。コントラバスの発音をよく聴かせるために、伴奏パートはとても薄くオーケストレーションされていて、多くの箇所でヴァイオリン2人とヴィオラ1人だけです。コントラバスと響きが混ざる可能性があるチェロを伴奏楽器から外している点が潔いです。

第5曲は「夢 Sogno」と題され、全曲中最も遅いテンポ(BPM=58)が設定されています。また、はっきりとした短調を感じるのもこの曲だけです。4拍子のこの曲では下行音階のような形が中心の4分音符と8分音符からなる極めてシンプルな主題が奏されます。この輪郭は第1ヴァイオリンとバスを担当するチェロとコントラバスによって形作られますが、その間を埋める第2ヴァイオリンとヴィオラのゆったりしたトレモロは3連符で、ここでもヘミオラのリズムへの偏愛が見られます。ヘミオラの使用方法はここでは「スケルツォ」と違って、リズム感を面白く聴かせるためのものではなく、響きの輪郭を曖昧にする効果が聞かれます。また、複数人いる楽器は全て分割なしで、全曲中最もリラックスした筆で書かれているように見えます。

最後を飾る「フィナーレ Finale」は、16分音符で2音ずつ段階的に上行していく音階が主題の核になっています。勢いのある音楽なので、勢いで書いてしまいそうですが、フランセの音楽に雑な筆はありません。響きのバランスを考えて、上声を3人で弾いたり、2人と1人に分けて上行形の影のように下行形を忍ばせたり、切れ目なく続く上行形が実は複数の声部で追いかけあっていたりと、工夫に満ちた筆致が見られます。とりわけ、弱奏箇所での強弱設定は丁寧で、上行形を第1ヴァイオリンの2人がpppで奏している時に、1人で下行形を受け持つ第3奏者にはppが当てられていたりして、響きのバランスを演奏中によく考えるように仕込んであります。後半では上行音階に3連符の刺繍音を噛ませたりして、洒脱な聞き心地を最後まで完遂しています。

フランセの音楽に私がとりわけ強く感じるのは、響きのバランス感覚の良さです。決して音数は少なくないのですが、肩の力が抜けていて、「書きすぎ」と感じる音はひとつもなく、なぜその音がそこに書かれているのか、自然に目や耳が導かれていきます。このバランスの良さは作曲において必ずしも良いことばかりだとは思いませんが、彼の音楽性にはとてもよく作用していると思います。フランセの音楽はいつも聴くのが楽しく、私が好んで聴く作曲家の1人です。

*「楽譜のお勉強」シリーズ記事では、著作権保護期間中の作品の楽譜の画像を載せていません。ご了承ください。


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