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熊大フィル第60回定期演奏会を聴いて

本日2024年1月14日は、熊本大学フィルハーモニーオーケストラの第60回定期演奏会を聴いてきました。指揮には若手で活躍していらっしゃる矢野雄太さんを呼んできていました。自分が熊本大学で受け持っている学生も演奏に参加していたので、嬉しく見ていました。

演奏曲目はモーツァルトの序曲と交響曲を1曲ずつと、シベリウスの交響曲でした。交響曲2曲という硬派なプログラムです。サマーコンサートでフレッシュな演奏を堪能したので、楽しみに聴きにいきました。

今回、全体を通して感心したのは、低音弦セクションの上手さです。特にコントラバスは巧みなバランスの音量と丁寧なイントネーションできっちりと歌い、難しいパッセージもつるりと弾きこなし、まさに演奏全体に安心感を与えてくれていました。チェロもイントネーションがとてもよく揃えられており、オーケストラの倍音をよく鳴らしてくれる役割を果たしていたと思います。トゥッティ(全合奏)で高音が華やかに盛り上げる箇所ですら、気づくと低音を聴き込んでいる自分がいたりもしました。

モーツァルトの『フィガロの結婚』序曲は、ややホールの響きを探るような演奏に感じました。弱音のフレーズ開始音の立ち上がりがやや心許なく、ホールに響きを吸われているような感覚がありました。後半では調整してきて、フレーズの立ち上がりも素直でモーツァルトの華麗な響きが整っていきました。

続く『交響曲 第35番 ニ長調「ハフナー」』は、清潔感のある若々しい演奏でした。第1楽章などは少し丁寧すぎる感じがあり、主題の快活さをもっと奔りをもって聴きたい思いもありましたが、響きの設計は立体的でとても聴きやすかったです。3楽章のメヌエットの演奏が一番好みでした。複雑な主題を力強く弾いているけれども、舞曲の性格はしっかり残しつつ、創意に満ちた古典音楽への敬意を感じました。惜しいと思ったのは第2楽章の装飾音が揃いきらなかった点でしょうか。モーツァルトの緩徐楽章は本当に聴かせるのが大変です。

休憩を挟んでシベリウスの『交響曲 第2番 ニ長調』です。熊大フィルでは団員が意見を出し合ってメインの楽曲を決めているそうですが、弾きたいと言った団員が多かったことが伝わってくる渾身の演奏でした。規模が大きいため、聞きどころも多いですが、あらゆるソロ、小アンサンブル、トゥッティの場面で練習が行き届いており、説得力の高い演奏でした。特に少ない数の楽器でアンサンブルを弾いている時の密度の高い対話性は、シベリウスの音楽の内面を深く表現していたように聞こえました。全ての楽章を面白く聴きましたが、モーツァルトの交響曲の時とは対照的に、緩徐楽章の演奏は白眉でした。低音弦のピチカートが長く続く冒頭は、先述の通り、低音弦セクションの素晴らしい一体感によって、ずっと聴いていたいと思えるほどの美を堪能しました。ファゴットのメロディーも素晴らしかったです。

そしてプログラム巻末には恐怖の告知が!今年6月のコンサートではどうやら私が指揮をするみたいです。実は今日の演奏会では、音楽を楽しんでいたのと同時に、自分が指揮する時のことを考えて指揮や楽団の様子を観察していて、とにかくずっと緊張していました。頑張って勉強したいと思います。

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