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熊大フィル定期演奏会を聞く

先週の話ですが、私が勤める熊本大学の音楽サークル、熊本大学フィルハーモニー・オーケストラの定期演奏会を初めて聞きにいきました。曲目はベートーヴェンの『交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」』、メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』から序曲(作品21)と劇付随音楽(作品61)から数曲の抜粋、チャイコフスキーのバレエ『くるみ割り人形』の「花のワルツ」、そしてアンコールとしてビゼーの『アルルの女 第2組曲』から「ファランドール」でした。古典的なプログラム構成で、音大ではない大学の学生オーケストラによるプログラムとしては定番のプログラムだと思います。指揮は教育学部音楽科教授の山﨑浩隆先生でした。

プログラム1曲目は『花のワルツ』。よく知られたメロディーで規模も大きくなく、学生にとって学びやすい曲だったのではと思いました。リラックスした演奏で、良いオープニングになりました。

プログラム前半のメイン、『真夏の夜の夢』も、学生オーケストラにとてもよく取り上げられる作品です。メンデルスゾーンのオーケストレーションは透明度が高く、響きの設計が素直で、オーケストラの演奏の勉強を始める時によく用いられる曲が多いです。ただ、演奏が簡単というわけではなく、この日の演奏でも、特に序曲の弦楽器セクションはイントネーションを合わせるのに苦労していたようにも聞こえました。しかし、音楽そのものは生き生きと響いていて、魅力は伝わってきました。「結婚行進曲」など、全合奏がよく活かされる音楽では、若々しい響きで力強く演奏していました。

後半のプログラムはベートヴェンの『英雄』です。大きな曲は全体像を捉えるのが難しく、そのために音楽設計が細部に寄ってしまうことが往々にしてあります。この日の演奏では、第1楽章が堂々としていて一番良かったのではないかと感じました。おそらく学生の皆さんも、第1楽章を一番よく知っていたのではないでしょうか。緩徐楽章は、技術的な難しさよりも、とりわけ音楽作りが難しいと言われることが多いです。この日の演奏でも、そのことを感じました。おそらくそれは、和声進行の和音の機能ごとの響きの特性や、非和声音の処理の仕方など、具体的な演奏方針を定めなければゆっくりした音楽ではどうしても冗長さが出てしまうことに由来していると思います。『英雄』は大きな設計の曲ですが、若い学生オーケストラが太刀打ちできないものというわけでもなく、みずみずしい感性で、良い勉強をして演奏していたと感じます。フィナーレまで弾き切ったのを聴き届けることには、大きな充実感がありました。

アンコールの『ファランドール』は、プログラムを弾き切って、その演奏を聴衆に歓迎された若い人たちの達成感に溢れた良い演奏でした。合奏の迫力も強く、個々のソロ・メロディーも楽しそうに演奏していました。

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