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ガラピアシルク「マラソン」感想

 「ガラピアシルク」というカンパニーは沢山アーティストを抱えていますが、「マラソン」というこの演目は、転換時に少し手伝う人が出てくる以外はずっとセバスティアン一人で行う現代サーカスです。

 最初に体重を測り「77.8kg」を観客に見せ、ショウの最期にも測り「76.3kg」をみせた時、この1.5kgは単なる努力値ではなく、全力で駆け抜けた70分間の、彼のエネルギーを示しているように思いました。この演出に、今回の公演の哲学を強く感じました。

 彼は、ナイフを多用します。
 ナイフを自由落下させ、その下で動く腕や足をすり抜け、床板に突き刺さって立ちます。たくさんのナイフを、いっぺんに放り投げ、全て床板に刺します。ナイフを逆さに立ててそのうえで綱渡りもしましたし、誰でも鉛筆でやったことのある指の間毎にナイフを立てる遊びも軽々とこなしていました。

 その中で私が最も危険だと思い驚いたのは、観客の5歳程度の子供にナイフを一人で並べるよう指示したことです。

 私は、それを見て瞬時にアマゾンの奥地に住むピダハンのことを思い出しました。過去や未来という概念が無いその部族は、3歳で成人し、3歳でもナイフで一人遊びをするそうです。
 ナイフの扱いに長けている必要性のある環境なのでしょうが、自然とはそもそもリスクが伴うことを、その部族は知っているように思います。

 ゼロリスクを目指した結果、公園に行っても携帯ゲームしかできないこの日本において、セバスティアンが子供にナイフを扱わせたのは、衝撃的でした。

 これは決して、彼がリスクが大好きという訳ではありません。
 人間はリスクに挑戦できるし、リスクを克服できるほど鍛えることもできるし、そしてリスクと共に生きる姿は美しい。それを伝えていたように思います。

 彼は、サーカスを通じて言いたいことが山ほどある。それが分かったのは最後の最後のラストシーン。

 体重を測り1.5キログラムの減量に皆が驚き、拍手をする。みんながこれでもうショウが終わったと思ったそのあとで、サボテンの周りに土を撒く。そうして舞台と外の世界との境界を消していました。

 ショウとしては蛇足、でもこれは単なるこの場で消費されるショウではないので現実への架け橋をかけてあげる、そんな行為に思えました。

 これは本当に良い公演でした。セバスティアンも、ガラピアシルクの他の公演も、もっともっと見たいですね。

http://en.galapiat-cirque.fr/

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