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大量PCR検査は(実は感染していない)多くの市民を隔離できなければ効果を持たないことを軽く計算してみた

日本国内で新型コロナウイルスの感染者が初めて見つかってから1年、またぞろ大規模PCR検査の話が飛び込んできました。

無症状感染者を見つけて感染拡大を抑止するため、80万人にPCR検査を行う、ということを目指しているようです。

これ、実際に行うとどうなるのか? EXCELを使えば簡単に計算ができるので、さっとやってみてどんな影響があるのかシミュレーションしてみましょう

シミュレーションの前提

・検査対象者:800,000人
・この中に隠れている無症状感染者を80人と仮定
(1/15現在の広島県の陽性者数=752人だったので、これの約1/10とした)
・PCR検査の性能については、以下の通り仮定します
  感度(陽性者を陽性と正しく判定する確率)=70%(30%は偽陰性となる)
  特異度(陰性者を陰性と正しく判定する確率)=99.9%(0.1%は偽陽性となる)
この条件で80万人に1回検査したらどのような結果になるかを示したのが以下の図です。

スクリーンショット 2021-01-16 16.19.482

<結果>80万人の無症状者のうち、856人に陽性反応が出る

※追記
新型コロナウイルスPCR検査の特異度はもっと高く、限りなく100%に近いのでは? という指摘を頂きました。中国などでのとてつもない規模の検査の情報などを見ていても確かにかなり特異度は高そうだ、と感じます。一方、日本では体操の内村選手が偽陽性を疑われる事例があり、実際のところが私には分かりません。
仮に、99.9%ではなく99.99%だったら偽陽性の人数は80人に、99.999%だったら8人になる、という計算結果になります。一方で陽性の感度についてはそれ程高くすることはできないので、一定人数のすり抜け(偽陰性)は確実に出ることは間違いないと考えられます。

さて、ではこの結果を受けてどうすれば感染拡大の封じ込めに意義があるでしょうか? 検査の目的は無症状感染者の発見と隔離にありました。ということは

・856人を病院・専用客室に収容する/外出自粛を要請して自宅隔離する

という対策を打つことが考えられます。一気に800人超を施設に収容するのは困難でしょうから、自宅隔離要請が現実的でしょうか?

しかし、実はこの中には真の感染者は56人しか居ません。残りの800名はPCR検査の性能限界による偽陽性(本来は陰性なのに陽性と出てしまった人)です。誰が真の陽性でだれが偽陽性かは神様しか分からないので、全員感染者とみなして対処する必要があります。

つまり、56名の無症状感染者を見つけて隔離するために、本当は感染していない800名が新型コロナ陽性者として見なされるようになります。

この800人の方々の人権と生活を守る算段を整えておくことが80万人にPCR検査を行う前提になると私は感じます。

濃厚接触者の家族はどうするか?

さらに、856名には家族などの濃厚接触者が出てきます。本来は職場や学校なども含めて調査が必要でしょうが、一度に800人超の追跡調査は難しいでしょう。結果、簡単にするために濃厚接触者を家族だけに限定される可能性が高いと感じます。世帯平均人数を約2.4人とすると
 濃厚接触者数 = 856人 × 2.4人/世帯 = 2,054人
(真の濃厚接触者数 = 56人 × 2.4人/世帯 = 134人)

差し引き1,920人は本来必要のない濃厚接触者判定を受けて、陽性者と同じく2週間の外出自粛要請をされることになります。(PCR検査時は陰性でも感染者である可能性を排除できないため)

つまり、偽陽性者(800人)および偽陽性者の濃厚接触者(1,920人)、あわせて2,720人はウイルスに感染していないのに2週間の外出自粛を求められることになります。

56人の無症状感染者を見つけるために、感染していない2,720人の生活に大きな制約を科すという対策は容認されることでしょうか?

偽陰性により補足できなかった無症状感染者は?

加えて、仮定した80人の感染者のうち、30%にあたる24人は陰性判定(偽陰性)が出てしまいます。この方々は行動制限を受けないうえ、陰性判定を受けているので行動がより活発になり、スーパースプレッダー(たくさんの人に感染を拡げるひと)になってしまう可能性が高まります。陰性判定を受けた799,144人の中のたった0.003%ですが、24人のうちたった6人が10人に感染させるクラスターになってしまうと80万人にPCR検査をした成果(56名の無症状感染者隔離)が吹っ飛ぶことになります。

こうならないためには、PCR陰性者799,144人が、検査後も変わらず3密回避などの基本対策を徹底してもらうことが大切になります。

80万人PCR検査を意味あるものにするためには

検査を有効にするために必要な対策をまとめると、
・陽性と判定された無症状者は全員隔離する必要がある
 856人中800人は偽陽性で感染していないが、神様しか判別できないため
・陽性者の濃厚接触者も自宅隔離など行動制限を受け入れてもらう必要がある
 偽陽性者800人の濃厚接触者1,920人は本来行動制限が不要だが、神様には判別できないため
・陰性判定者全員に引き続き3密回避などの基本対策を続けてもらう必要がある
 
799,144人の中に24名の無症状感染者が紛れ込み、検査は陰性証明にはならないため

80万人にPCR検査をすることのメリットとデメリット

広島市が80万人PCR検査を実施するメリットとデメリットについて、私なりの理解をまとめます。

《メリット》
 ①56人の無症状感染者を見つける事ができる

《デメリット》
 ①800名の「本来感染していない方」を「PCR陽性」と判定してしまう
 ②2,720人の「本来自宅隔離が不要な方」に自宅隔離を強いる
 ③24名の本当は感染している無症状者に油断を招く可能性がある

あげた数字は以下の仮定に基づく計算結果です
・検査対象者800,000人 うち、無症状感染者80人と仮定
・PCR検査の性能 感度=70% 特異度=99.9%

これらのメリットとデメリットを秤に掛けたとき、本当にという資金と人的リソースを80万人へのPCR検査という事業に割くべきか? しっかりと科学的視点で考えて欲しいなぁと感じます。

症状が出た方/疑いがある方がすみやかにPCR検査を受けられる体制を充実することは重要

上の思考実験はあくまで無症状者に対する大量PCR検査のメリット/デメリットを考えてみたものです。

症状が出ている方や濃厚接触などで疑いがある方についてはすみやかにPCR検査を受けて自己隔離や適切な医療へのアクセスできるよう、体制を充実させることはとても重要なことだと感じます。

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