【ワクチン打っている人ばかり感染している! は正しいです。それでもワクチンは有用です、というお話】(長文)


はじめに

新型コロナが身近に居る日常が当たり前になっている今、だれもが感染を経験するリスクを抱えています。そうなると「ワクチン打っていたのに感染した」「私は打っていないけど感染してない」という話が良く聞かれるようになります
そこで、改めて上記に書いたことを確認しておくのも良いかな、と思い三重県の現状(といっても今年4月までの状況)と今後の見込を整理してみました

三重県民の年代別ワクチン接種状況について

①三重県民のワクチン接種者数を、首相官邸hpから確認

ワクチン接種3回完了者は県民全体でみると69.2%です。しかし年代別に見ると50代以上が80%を超える反面、10代以下は50%を下回り11歳以下になると10%にすら到達していません
(最近の研究では、3回接種していても1年以上ブースター接種をしていないと未接種と同程度まで抗体の力が落ちてしまう可能性がある、と指摘されているので、実際は4回完了以上が望まれますし、現在始まった23年度秋接種は是非みなさんにお勧めしたいと考えています)

三重県民の新型コロナ罹患状況

②年代別の罹患者数/罹患率を三重県が全数把握していた頃(5/8迄)のデータより確認(死者数は厚労省hpより)

第8波までのデータですが、罹患者数の多くを40代以下が占めており、50代以上の三重県民は未だ4人に3人以上のひとが未罹患であることが分かります
また、死者は40代以上、特に70代以上で多く出ていますが、棒グラフでは視認できない程度のため多くの方が日常では「身近に感じない」≒「新型コロナはただの風邪」と思いやすい理由の一つになっています(実際には後述の通り、ワクチン未接種の80代だと罹患すれば20人にひとりくらいが亡くなるリスクがあると考えてよい疾患なのですが……)

ワクチン接種の効果を研究資料から仮定

③ワクチンの効果を調べた研究の概要(厚労省の資料より)

実際には接種者の個人差、接種からの時間経過などで変わるのでこのような単純な話ではありませんが、大雑把な効果をみるために
「発症予防効果30%」「死亡予防効果65%」
と仮置きして以後の推定を進めます(かなり乱暴な仮定ですが)
ちなみに、発症予防効果30%とは、例えばワクチン未接種者が100人のうち30人が発症する状況で、ワクチン接種者100人なら30人→21人と9人(30%)減少する効果がある、ということです

三重県民におけるワクチン接種者と被接種者の新型コロナ罹患者数推定

④三重県民の世代別ワクチン接種者(3回以上)/非接種(2回以下)それぞれでの罹患者・死者数推定

発症予防効果を30%、死亡予防効果を65%と仮定し、三重県民の感染者数を3回完了者と2回以下に割り振ってみたのがこの表です
ここから推測できるのは以下のような事実です

  • 10代以下をたくさん観ている三重県民にとっては、未接種の罹患者の方が多いと感じるはず

  • 一方、20代以上の人との接点が多い大半の県民にとっては、【ワクチン接種したけど感染した】人にであう方が圧倒的に多いだろう
    →ワクチン接種しても感染そのものを防ぐ効果は限定的であるため、母数の多さの影響の方が大きい

  • 【死亡したあの人もワクチン接種していた】という数の方が多い
    →これも母集団の多さが影響している

つまり、肌感覚で言えば【ワクチン打ってるひとばかり感染している】のは事実ですし、【ワクチン打った人の方がたくさん死んでいる】のも事実です
この肌感覚からは「ワクチンは意味がない」と判断したくなりますが、本当にそうでしょうか?

死亡率で比較すると違う事実が見えてくる

交通事故をイメージしてください。以下の表は2022年の三重県における交通事故のシートベルト着用状況です(三重の交通事故(R4.12)【確定版】 (pref.mie.jp) より)

令和4年三重県における交通事故のシートベルト着用状況

シートベルトを着用している方が非着用の人より多くケガ/死亡しています。(シートベルト着用者の死亡は14名で非着用の8名より多い)
では、シートベルトには意味がないのでしょうか?
もちろんそうではなく、圧倒的にシートベルトを着用している人の方が非着用の人より母数が多いので、事故を起こす件数だけ着目すると「シートベルトを着用していたのにケガをした/死亡した」方が多くなっているのです
身近で起こる事故での負傷でも大半のかたはシートベルトをしていても負傷します。しかし、だからと言ってシートベルトが無意味であると言うことではありませんし、死亡事故が起こるからシートベルトは無駄ということでは有りません。注意書きにも書かれているように、8件の死亡事故のうち4件はシートベルトをしていれば死ななかった可能性があると考えられています
ワクチン接種もこれと同じことが言えます。ワクチンを接種した場合としていなかった場合では死亡率に差が生じます
例えば80代(80~89才)に注目してみましょう。いずれも推定値ですが

  • ワクチン3回完了の罹患者16,155人のうち死亡者は388人
    =罹患者の死亡率2.40%

  • ワクチン2回以下の罹患者727人のうち死亡者は35人
    =罹患者の死亡率4.81%

と、接種歴によって死亡率に倍の差が生まれます
仮に80代の方が全員ワクチンを接種していなかった場合を仮定すると、
16,155人の罹患者の4.81%が亡くなる見込なので778人
つまり、ワクチンを打つことで778人-388人=390人の死亡を回避できていたと想定できます
つまり、ワクチンの効果は件数ではなく罹患率や死亡率で観る必要があります。その観点で観ると、【ワクチンは多くの命を救っており有用】なのです

全員がワクチン接種を辞めてしまった仮想未来で起こること

ただ、残念なことに現状のワクチンの効果は半年~1年程度しか持続しないため、インフルワクチン同様定期接種を続けないと抗体を維持できません。このまま多くの方がブースター接種を辞めてしまうと、今迄保たれていた抗体が下がっていくので、全国民がワクチン未接種の状態に近づいていきます
仮に、全員がブースター接種を辞めてしまった世界と、逆に全員がブースター接種を続けた場合の2つの仮想世界で、三重県民の未感染だったひとがすべて感染しおえた近未来を比較してみましょう

全員ワクチン接種した場合と、全員接種を辞めた場合の死者数比較

2023/5/8時点で、三重県民の約71%、123.9万人は未感染です。この方々が全員感染し終えるとして

  • 上段:全員がワクチンのブースター接種をしていた場合の想定死者数=6,254人

  • 下段:全員がワクチン接種を辞めた場合の想定死者数=12,502人

非常に暗い未来図なのですが、最悪の想定(今後ウイルスが弱毒化したり、より良い治療方法が確立して死亡率がもっと下がらない場合)では、仮に全員がワクチン接種をし続けても、全員が感染し終えるまでに6,254人の死者が出てしまう可能性があります。しかし、仮に全員がワクチン接種を辞めてしまうと死者数は12,502人にまで増加してしまう可能性があります
つまり、2023年4月までに出た死者(1,052人)の10倍以上が今から近未来にかけて三重県で出てしまう可能性がある、ということです

5類になった今、私たちに必要なことってなんだろう?

新型コロナは非常に高い感染力を持ち、かつヒトだけでなく獣にも感染します。これだけ世界に拡がってしまったウイルスを根絶することはもう不可能でしょう。つまり私たちは【新型コロナウイルスがそばにいる日常】を生きていくしかありません。残念ながら、新型コロナがなかったあの頃には戻れないのです
そんな私たちには、2つの選択肢があります

  1. コロナ禍以前と同じ生活様式に戻して、新型コロナ罹患/重症化のリスクを受け入れる

  2. 新型コロナ罹患/重症化のリスクをできるだけ下げられる、新たな生活様式を創り出す

例えばマスク
コロナ禍以前は、病院や食品会社、半導体工場など衛生基準の厳しい現場以外では、花粉症のひとと喉が弱いひとが着用している程度でした
その状況に戻す社会実験を5類化後の5月から5ヶ月間実施したところ、新型コロナウイルスがそばに居る今では、コロナ禍以前と同レベルまでマスク着用を減らすと新型コロナだけでなく他の様々な感染症も過去にない傾向を示して増えてしまう、という現実に直面しています。このようなことはコロナ禍以前はありませんでした。しかし、今は現実に起こっています。ではどうするか?
感染症が増えるという状況を受け入れてマスク着用はコロナ禍以前の状況を維持するか、マスク着用についてのマナーをもう少し変更して、感染症を減らせる”いい塩梅”の社会ルールつくりを模索するか?
私たちにはまだ、この選択肢を選べる力があると信じたいと私は思っています

終わりに

新型コロナの5類化とは、ウイルスの脅威が去った結果ではなく、新型コロナへの対抗方法を国が一律に旗振りするのではなく企業や市民一人ひとりに判断を委ねるという意味での5類化だと私は感じています
「新型コロナはただの風邪」
自分の周りだけを見ていると感じるかもしれません。交通事故や火事のリスクを直感的にはあまり感じていないのと同じです
しかし、実際に三重県民の罹患状況や死亡率をみてみるとそう楽観できる状況ではない、と私は今も感じています
一方、2020年前半の様に閉じこもる必要もまたないと考えています
適切にワクチンを接種し、マスクや換気、手洗いなどいくつもの感染対策マナーをいい塩梅に採り入れた楽しいイベントの開催や旅行、仕事、学校生活を創り出す力を、私たちは持っています
私たちが住む世界は【新型コロナウイルスがそこに居る世界】に変わってしまいましたが、その変化を受け入れて自分の生活の形をしなやかにバージョンアップし、みんなで幸せを掴んでいきませんか

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