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魅惑的な博多の夜を歩きながら,2つの心の間で揺れるボク。ある夜の物語。 ノスタルジック・ラーメン編

**―博多の夜

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 博多の夜は魅力的である。本当に魅力的なのだ。とにかく明るい。何だか明るいとワクワクしてしまう,刺激に弱いボクにとって,博多はそれだけで素晴らしいのである。
 
しかも・・・。
博多は,欲望を刺激する。誘惑が多いのである。

 思わせぶりな書き方をしたが,食べ物のことである。もつ鍋,ラーメン,水炊き,明太子,うどん。もう枚挙にいとわない。考えただけで幸せになる。ボクも何遍もシュミレーションした。

―最終日の夜は雨だった

 最終日の夜のことである。小雨が降る中をボクは急いでいた。バスに乗るか?歩くか?ボクは迷っていた。小雨が降ってきた。傘はあるが,折り畳み傘で少し小さい。ボクの体だと少しはみ出してしまう。そんな傘だから,小さく細い,そして軽い。だからいつも持ち歩いている。お守りのようなものである。軽い,けど小さい。けど,少しは濡れるがしのぐことはできる。しかも,濡れるのはあんまり気にしない。でも,気にしないに訳にはいかない寒い日だった。

 ベネフットとリスクを天秤にかけながらボクは言い訳を考えていた。日常には意識することはない,だから何かあったときに言い訳を考えるのである。
 

 そんな言い訳を考えながらボクは歩いた。


ー歩くボクが歩きながら考えたこと

 歩くことを積極的に選択したわけではない。バス停に並ぶ人の列が目に入ったのだ。研修初日の夜,同じように雨が降った。ボクは,一本目のバスをやり過ごして二本目に乗った。多くの人が並んでいたからだった。乗らなかった。きっと,ボクの動きに他の人は注目していただろう。ボクのスーパーボディは,2人分くらい空間を支配するのだ。そして,だからこそ,人の2倍くらい人の視線が当たりやすいのだと思う。そんな自意識過剰なボクは,2本目のバスに乗り込んだ。1本待ったからだろう,ご褒美にボクは座ることができた。でも,ボクは,閉じ込められた。そう席の横は人であふれ,熱気がバスの中にこもった。汗が額ににじんでいるのが分かる。でも,動けなかった。「ボクのせいじゃないですよ」3回ボクは心の中でつぶやいた。

ーそして,奴がやってきた。その思いとは 

 決してそれで歩いているわけではないが,歩いている僕の心にそんな経験が浮かび上がってきた。その時,「なに食べよう」打ち消すように,釣り上げそうな小魚がいきなり来たブラックバスに食いつかれるように,ボクの心は「なに食べよう」に支配された。

 

 そして,「ラーメン」と「牛丼」そして「定食」が,ボクの頭の中に浮かんできた。「ラーメン」7分の4を,「牛丼」が7分の2を,そして残り7分の1を「定食」が支配した。チラチラと蘇るバスの思い出は,油断すると時折,食べ物の切れ間から顔を出していた。その境界は,グニャグニャとした線で,あいまいだった。時折被ることもあり,重なり合うこともある。不思議な感覚だった。

 

 歩いているうちに,「牛丼」が勢力を拡大した。ラーメンを食べるにはその夜のボクは疲れ過ぎていたし,定食を選ぶのは何だか面倒だった。そうして,ボクは牛丼をイメージしながら街を歩いていた。

―たまたまの運命 

 どのくらいか歩いただろう。ボクの目に飛び込んできた赤ちょうちんの光に押されて,定食が盛り返してきた。それでも,定食を選ぶには,ボクはいささかめんどくささが強くなっていたし,赤ちょうちんの光は刺激的過ぎた。見るだけで疲労感を感じたし,博多のラストナイトという言葉の響きを満たすだけの魅力には物足りなさを感じた。これが,昼なら,定食に押し切られボクは,店に入っただろう。でも,夜だった。それだけの事だった。それだけのことが,ボクの行動を支配した。

 その時だった。そこにあったのはラーメン屋だった。ラーメンの文字に何だかノスタルジックな感覚を持った。カタカナのラーメンが,ひらがなに勝ったのである。何だか奇妙な感覚だが,人は自分の経験や周りの人の経験を伝え聞きながら,自分の中のイメージを作り上げていく。ボクの周りにラーメン好きが多く,ボクが前回の研修でラーメンを食べ逃していたということが関係していたのかもしれない。とボクは自分に言い聞かせた。

 とにかく,衝撃だった。ラーメンの文字に,ボクはそこに入った,あるいは妥協かもしれない。でも,そのときはそれだけだった。ラーメンのことが僕の心を支配していた。それでも,やはり牛丼はあっただろうし,定食は心の隅にこびりついていた。

 たまたま,定食がしぼんだ時にラーメンがあって,それに心が動いてその時体が反応して,そこに店の入り口があって,そのままボクは入っただけなのかもしれない,そして,たまたま店の席が空いていて,店員さんの笑顔に押されて座っただけなのかもしれない。それでも,そのラーメンはおいしかった。そして,食べ終えたボクは,満足感をたっぷり味わいながら,店を出た。口の中に残るウマいの余韻とヤケドのヒリヒリ感と共に・・・。
これもまた,いい思い出になった。さて,次はどんな出会いがあるだろう。

 いろいろな思いがあっても,いやいろんな思いが溢れるほどに,やっぱり博多は大好きだ!!

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