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ラストリゾート(曲解釈二次創作)

※ピクシブに上げていた作品ですがピクシブもサイバー攻撃を受ける可能性があるとのことで。
ほんの少しだけ手直しをしています。


───これは禁煙と言っていいのだろうか。僕は熱が出た時に「だけ」、煙草を吸う。体調管理は気を付けているから滅多に吸わない。
僕の名前は霧島 絵夢。………ここでまで隠す必要は無いか。本当の名前は絵里花って言う。聞いただけで1発で女ってわかるでしょ。「絵」の1文字は好きだけど、この名前は大っ嫌いだ。僕は巷で言ういわゆる「性同一性障害」ってやつだ。専門用語的に言うと「FTM」ってやつ。会社では「男性」で通ってて、誰も僕のことを女だとは気付いていない。
僕はとある編集社の漫画担当だ。この会社はフレックス制で、遅刻という概念は無いが、毎朝10時には絶対に出勤できるように心掛けている。だが成績(すうじ)は伸び悩んでいるから、このデスクでは一番下っ端扱いで。一番嫌な役を押し付けられる。その嫌な役とは。ベテラン作家のご機嫌取りと、僕みたいに成績の伸び悩むというか…イマイチぱっとしない新人漫画家に厳しい態度を取ることだ。僕は生まれてこの方いじめなんてしたことはないが、これがこの編集社の方針なのだ。
───嗚呼。また今日が来てしまった。
12時。ベテラン作家Lとのアポがある。時間より数分遅れたのに詫びもせず、そのLは腰掛ける。
「こんちは霧島ちゃん。今日は良い作品あった?」
霧島「ちゃん」と呼ばれるのはあまり好きではないが応答する。
「良い作品あったらもっと僕の目、輝いてると思いません?」
「確かにな」
「…………相変わらず素晴らしいです。この箇所だけ○○とかもう少しわかりやすい感じにするだけでいいですね。明日同じ時間にまたお願い致します。」
「ん、おっけおっけ。また明日な!」
13時。大体いつも12時にLとの打ち合わせがあり、一時間で終了。この時間から休憩に入る。───最近疲れが溜まりやすい。昼食を食べてから1時間仮眠を取ったが、開けた目がぼやけている。
14時。いつもより体が重い。マズい。この感じは熱がある感じだ。会社の体温計で測ってみる。げ。42度…
「うえ、42度ってやばくないか?お前が体調崩すなんて珍しいな…ほら、はよ帰れ、寝ろ寝ろ。明日また来てもらわないと困るんだから。」
先輩にそう促され、今日は早退した。体が重すぎて、確かに帰って何もせずに煙草だけ吸って寝たい気分だった。
帰宅。久々に煙草を吸う。すると、さらにどんよりと体が重くなった気がした。体が寝ろと言っている。リンスも切れてるし、洗濯物も溜まったままだ。でもまぁもういっか。僕は眠りについた。
僕はあまり夢を見ないが、熱が出た時は決まって夢を見る。毎回良い夢なのだまだ救いだ。だが、今日の夢は違った。

なぜか豪華なリゾートにいる。目の前に案内人のような男が1人。
「ようこそようこそ霧島様!!この、ラストリゾートへ!」
「…ラストリゾート…?」
「本日から、このラストリゾートを存分に楽しんでくださいませ!!…と言いたい所なんですけれども、如何せん当リゾート、人手不足でして。いきなりで大変恐縮なのですが、霧島さんには当リゾートの舞台の役者をして頂きます!」
「へ?役者?すみません、ちょっと飲み込めないんですけど…」
「ああ!自己紹介を忘れておりました。私、当リゾートの総支配人を務めております紅川と申します。赤い制服ですから、覚えやすいでしょ?うーん、飲み込めない?まぁいきなりなことを言ってはいますが、何を言っていらっしゃる!貴方は毎日役者をしているでしょう?」
「役者って…僕は編集s」
「私から言わせて貰えば。あの仕事は編集者というより役者ですよぉ。あのL。いっつも貴方に騙されてる。あ、騙すって言い方は適切ではないかな。騙すっていうと詐欺師みたいですよn」
「わかったわかった。何で貴方が僕のこと知ってるかは知りませんが、役者をやればいいんですね?もちろん無賃ではないでしょ。」
「ええ勿論勿論!それ相応の対価はお支払い致します。おわかり頂けて光栄です。では改めましてようこそおいでくださいました、このラストリゾートへ!」
「はぁ…」
こうは言ったが、僕は隙を見て逃げるつもりだった。そんなこと聞いてないし、演技なんていつものご機嫌取りで充分だ。
「はいこれ台本です。□□っていうのが霧島さんの役。明日リハで、明後日本番ですから明日までにはできるようにしてきてくださいね。貴方が主演ですから。ま、主演と言っても一時間の台本ですから。頑張ってくださいねぇ~」
「え?!主演?!ちゃんとした芝居なんてしたことない僕がいきなり?!」
「ほら。つべこべ言ってる暇があるなら台詞覚えたらどうですか?リスケはできませんので。宜しくどうぞ。」
「………何て奴だ…」
僕は、逃げられなかった時のために一応は台詞を覚えた。そして、このリゾート内を歩いてみる。───広い。果てしない広さだ。どれだけ歩いても、出口らしき所が見当たらない。そこらに歩いている人々は、一見普通だが、皆顔色が悪い。
「あれあれ。主演俳優がこんな所で何をやってらっしゃるのです?」
「べっ 紅川!…さん。貴方こそこんなリゾートの端らへんで何を?」
「端?ふふふふふ!当リゾートに【端】なんてありませんよ。確かに、舞台や控室からは離れた所にありますけどね。私は、【総支配人】ですから。ちょっとでもいつもと違うことがあればこの目で確かめる、というのをモットーとしておりますので。」
「…僕にGPSでも仕込んでるんですか。」
「このラストリゾートに、GPSなんてちゃっちいものあるわけないじゃないですか。」
「…ここのお客さん達、何かみんな顔色悪くないです?あれは何でなんですか。もしかして皆さん病気持ちとか?」
「当リゾートがなぜ【ラストリゾート】という名前なのか。理由は、今言ったこととも関係しているのです。…一応、【病気】というカテゴリに属するお客様はいらっしゃいます。ですが、それにしては皆様元気に過ごしてらっしゃると思いませんか?」
「…確かに。」
「でしょう。ご説明しておりませんでしたが…当リゾートは、死を目前にする人々が最期のリゾートを楽しむ、そんなリゾートなのです」
「!!」
「ふふ、最初に聞かれた皆さんはみんなそうやって驚かれる。まぁ、無理はないですね。ここは、この世とあの世の狭間にある場所ですから。このリゾートに来られたお客様は、もう二度と【この世】に戻られることはないので。」
「?!」
流石におかしい。僕は頬を抓ってみる。痛みを感じない。これは夢だ。良かった。
「…今、【夢だ、良かった】って思いましたね?」
「ぎくり。」
漫画みたいなことを言ってしまった。
「ふふふ。ですが、この夢の総支配人も私ですので。明後日の本番が終わるまで、貴方を目覚めさせることはできません。…まぁ、ネタバレというか、こういう【ゴール】みたいなものがあった方がお芝居に本腰を入れてくださいますかね。」
「…何で僕の夢を貴方が支配できるんです?」
「聞けば全て教えてくれるとでも?全てわかってしまうなんて、つまらないじゃないですか。…嗚呼いけない!夕食の時間だ。賄いを控室にご用意してます。召し上がってくださいね。腹が減っては何とやら、ですから。」
頬を抓っても痛くはなかったが、確かに空腹感はある。渋々控室に戻って夕食を取り、台詞を詰めてベッドの上で目を閉じた。
するとすぐ、この世界での朝が来たようだ。台本にタイムテーブルと地図が書いてあったのでそれ通りに行動した。リハーサルには紅川が同席していた。
「素晴らしいですねー!流石私が見込んだだけあります!」
褒められているのか貶されているのかわからない。
「では、明日も今日と同じ感じでお願い致します。お疲れ様です。また賄いを控室にご用意しておりますので。ご自愛くださいませ。それでは。」
そう言うとそそくさと退室してしまった。
僕は緊張で台詞が飛ぶことの無いよう、また台詞を詰めた。まぁ、夢で緊張しても仕方が無いのだが。───夢は夢と割り切っていても、紅川という存在が引っかかって気を抜くに抜けない。僕はまた目を閉じた。
本番は、多少緊張はしたが(この世界で言う)昨日のリハーサルと同じようにことを終えることができた。
「素晴らしいーーーっ!失敗無くやりきりましたね!この調子で今後もお願い致しますね!」
この言葉を聞いた直後に目覚めた。目覚ましの鳴る10分前だった。

今日も出勤する。この自宅から会社まではドアトゥドアで一時間程掛かる。使うのは電車だ。電車は通勤ラッシュの残り香があって決して空いているとは言えない。人間観察は好きなので電車の中の人々を見渡すのが日課だ。今日もいつも通り電車内を見渡していると、見覚えのある制服を来た奴がいる。
紅川?
間違いない、紅川である。声を掛けようとしたその刹那、紅川は人混みに紛れていなくなってしまった。
そして今日は、面白いとは思ったものの、うちの編集社とは意向が合わない漫画家が来て追い返したために少々憂鬱だった。
───俺が唯一、自分が女だと明かしている友人がいる。大学の友人の茜だ。茜も、違う編集社で漫画の担当編集をしている。だから、たまに二人で呑みに行き情報交換をしている。女だと明かしてはいるが、「絵夢」が通り名なのでそう呼んで貰っている。
「茜のとこ、最近どう?」
「あのね絵夢聞いて!珍しくすっっごい子が来たの!!」
「すっっごい子?それは良い意味で?」
「そう、良い意味で!私が最初対応したから私が担当できるの!!めちゃめちゃ楽しみ~💕何かもう、映画化とかもできるんじゃないかって!」
「その人は何て作家さんなの?」
「文蝶 大悟君っていう子!本名らしいよ~!珍しいしかっこいい名字だよね!!」
文蝶大悟。昨日追い返した新人作家の名だ。そのことを茜に話しても、僕には何のメリットもない。口から出そうになる「その人、昨日うちの編集社に来たよ」という言葉を飲み込み、「確かに珍しい名字だね。内容はどういう感じだったの?」と取り留めのない質問を並べ、文蝶についてのことを茜が気の済むまで話して解散した。
茜が言うように、文蝶の漫画はすぐに連載開始され、ノベライズやアニメ化もされ、爆発的な人気を誇った。
弊社では「文蝶を取り込んでいれば」の声が蔓延していた。いくら人気だからとはいえ、弊社のスタンスとは合わない。この意見もしっかりあったが、最近頼まれる雑務が増えた気がする。やはり皆文蝶のことがストレスなのだ。
勿論僕だって呑んで忘れたわけじゃない。ストレスはしっかりこびりついている。こんなにストレスがあっては、またあの夢を見てしまいそうだ。

───案の定、その夢を見た。
「おはようございます!本日は、この台本でお願い致しますね。またまた急で申し訳ないのですが、霧島さんに役者をやって頂く舞台としてはこの芝居が最後になります。その後は、脚本家としてオリジナルの台本を書いて頂きたいのです。」
「脚本家?!」
「はい。いつも漫画とはいえ物語のある物をお読みになっているんですから、脚本だって書けますよね?ま、明後日の舞台が終わってからの話ですから、まずは明日のリハーサルと明後日の本番に尽力してください。」
「はぁ…」
「今度貴方が目覚めるのは、脚本家としてオリジナルの台本を1作書き上げて、その本番を見終えてから。2時間ほどの台本でお願いしますね。丁度先程お渡しした台本くらいの長さです。では、本番含め期待しておりますよ。お願いしますね。」
と言うと紅川はいつものようにそそくさといなくなってしまった。
自分で自己満足な小説なら書いたことがあるが、脚本なんて書いたことがない。この前と同じように台詞を覚えるのと同時に、ストーリー展開を見たりなど「書く側」の立場で台本に目を通した。
やはり紅川の言った通り、普段の経験と以前この世界で舞台をやってみただけあって何かモチーフが掴めればすぐ書けそうな気がした。
日が変わり、2時間の台本のリハと本番は難なくこなした。
なるべく早めに書かないと、目覚められない。その焦燥感から、”モチーフ“を得るために散歩に出かけることにした。
いつもと変わらない、基本的に顔色の悪い人達を眺めながら歩く。すると。見慣れた顔があった。
「文蝶…?」
僕は思わず口に出してしまった。
焦っているような動きをしていた文蝶は、その声に気づいて僕と目が合う。
「あれぇ?!霧島さんじゃないすか!」
文蝶は駆け寄ってくる。
何でストレスの元凶がここにいるんだ。
「霧島さん何でここにいるんすかぁ?!」
「…それは僕も聞きたいよ…。…まぁ…僕から話すと…僕は割と熱が出やすいんだけど、最近熱が出る度にこの世界に連れてこられる。」
「へぇえ…!そうなんですね…!じゃあ俺もここにいる理由、ちょい推測になっちゃうんすけど…
実は俺、病気で余命短いんすよね~!」
こいつは何でそんなマイナスなことを明るく言えるのか。
「まぁ!天才は短命って言うから受け入れてるんす!あっ、ライバル誌の編集者さんだった…」
「…いいよ。もう済んだことだし」
「霧島さんは、ここで何してるんすかぁ?俺は、何か"役者が足りないから"って役者やれって言われてるんすよね~!しかも、今回脚本書くのが新人でまだ台本上がってないみたいなんすよね~!」
「…その新人脚本家、僕…なんだよね」
「えっ……そうなんすね。台本思いつきそうすかぁ?」
「まぁ演者の顔を見たことで、その演者がやりやすそうなキャラを考える…とかするとすぐ書けそうではある…とか言ってみる…」
「やりやすそうなキャラかぁ」
─ここで暫しの沈黙が訪れる。僕は誰といる時でも、こういう沈黙は耐えられる人だ。それは文蝶も同じらしい。
文蝶が余命が短いと知っても、僕のストレスは消えない。僕は根に持つタイプだ。
文蝶をたまに見ながら台本を考えていると、悪いことを思いついてしまった。
「文蝶君は今やっぱり裏切り系の作品描いてるよね。綺麗な友情!みたいなのはやっぱり嫌いなの?」
「嫌いっすね!あ!だから、台本書く時はそういう友情大切にしてるキャラは避けてほしいっす!」
これだ。この情報が欲しかった。
「…仕方ないなぁ。わかった。僕も台本書かないと起きられないから、控室で書いてくる。じゃあまた。」
「あざーす!じゃあまた!」
僕は控室に戻って台本用のPCに向かう。
僕が編集者として務めている会社で一番大切にしているのは、【友情】だ。だから文蝶を突っぱねたし、"友達と飲みに行く"と伝えると定時で帰れる。
僕は大体のストーリーを書き終え、文蝶の決め台詞を考える。
うーん。
"俺、お前と出会えて良かった!"
がベタかな。
そして台本を書き終え、紅川に渡した。僕は紅川に相談したいことがあった。
「おぉ、おぉ!流石ですねぇ、まだ全部読めてませんが、すっごく良い台本です!じゃあ明日リハ、明後日本番で組みますね!宜しくお願いします!」
「ねぇ、紅川さん。1つお願いが。」
「何でしょう?」
「僕の立ち会い、明日のリハはお休みして明後日だけでもいいですか?」
「なーんだ!それくらいでしたら全然可能です!では明後日、宜しくお願いします!時間は追って連絡しますね。」
良い流れだ。
リハの日、僕はすることがなかったので一日中寝ていた。紅川から時間の連絡が来ていた。
本番の日。僕は楽しみで楽しみで、玩具を買って貰える子どものようになっていた。
そして時間になる。僕は紅川の隣の観客席で、本番を見守る。
舞台は滞りなく進んでいく。
「人が足りなかったので文蝶さんを呼びましたが、文蝶さんお芝居もできるんですねぇ。やっぱり天才だ」
僕の隣でそれを呟く意味がわからなかったが、舞台に集中した。
文蝶の決め台詞の1つ前の台詞。文蝶の表情筋が変に動くのがわかった。いいぞ。そして。

"俺、お前と出会えて良かった!"

文蝶の声は震えていた。
その後はまた滞りなくラストまで行き、観客からはそれなりの拍手があった。
「はい!では絵里花さんにはちゃんと台本を仕上げ、本番も見終えて頂いたので!現実世界にお戻りくださーい!」
その台詞を聞くと目覚めた。
起きると、人気漫画家文蝶大悟死亡の文字がメディアを賑わせていた。

今朝の太陽はいつもより燦々と輝いて見え、
僕はいつも熱が出た時にしか吸わない煙草に火をつけた。
綺麗な日だった。

Fin.

原曲も是非↓
原曲(ラストリゾート)

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