You(短編小説)
「答えを…教えてくれよ。」
僕は1人、虚空に向かって呟いた─。
始まりは、1人で行きつけのカフェでコーヒーを嗜んでいた所だった。
僕が座る席はいつも決まっていて、滅多なことがない限り私が行く時間は空いている。
その席はテーブル席で、二人掛けの席のため自分と向かいの席に荷物を置き、ゆっくりコーヒーを飲むのが日課だった。
いつもは特に何も起きないのだが、この日はイレギュラーだった。
いつも通り、コーヒーを飲んでいると。
「すみません。こちらの席って空いてますか?」
年は自分と同じくらいの好青年だった。
そして、店はそこまで混んでいない。これからこの人の連れが沢山来るのかなと思った。
「ああ、空いてますよ。自由に使ってください」
「自由?じゃあ、お言葉に甘えてここ、座っちゃいます。」
好青年はそのまま座ってしまった。
急な言動と行動にぽかんとしてしまった。
「ああ、すみません。いつもこの席にいらっしゃるの見てて、話しかけたいなーって思ってたんです。」
「はあ…」
僕は少々疑いの目を向ける。
「あ!何かの勧誘とか、ゲイとかでもないです!ただ単に、貴方と話したかったんです。俺、田中 光っていいます。お兄さんのお名前、聞いてもいいですか。」
その青年のまっすぐな目は、嘘をついている目に見えなかった。
「田中さん…。僕は、斎藤 秀明。」
「秀明さん!じゃあひでさんって呼ばせてください!」
「ひでさん、か。職場でもそう呼ばれてるよ。」
「やっぱりそうなんですね!ひでさん、お幾つなんですか。俺とあんまり変わらないように見えるけど…。俺、24です。」
「俺も、24…」
「お、タメだ!じゃあ前言撤回、呼び方は秀ちゃん!堅苦しい敬語も取っぱらわん?」
「…そうだね」
話すと、趣味はまさかの丸かぶり。夕方まで話し込んでしまった。
また明日も、同じ時間にここで会う約束をした。
そして、月日はどんどん流れていき、斎藤は田中を家に呼ぶ仲にまでなっていた。
ここで1つ、斎藤には気がかりなことがあった。
田中が、自分は家に来るくせに、田中家には何かと理由をつけて絶対に家に上がらせないのだ。
とうとう我慢できなくなり、その件を田中に問い詰めた。
「ごめん、秀ちゃん。それだけは、答えられない。」
「ん~…光がそんな顔するなら、僕はもう言わないけど…」
「…トイレ行ってくる。」
光がそういうと、光は音もなく消えていた。
光がいなくなったのを知った時、僕の目からは涙が1筋流れていた。
何を泣いているんだ、僕は。明日になればきっと、いつものカフェにいるはず。
そう思ったが、ぴたんと光はそのカフェに来なくなった。
電話をかけようと思った。でも。
なぜか番号が思い出せない。
「答えを…教えてくれよ。」
僕は1人、虚空に向かって呟いた。
でもこの僕のことだ、どこかにメモしているだろう。家の中を探しに探した。
すると、裏に何か書いてあるだろうメモを見つけた。これだ、と思いめくってみると、自分の字でこう書かれていた。
「田中 光は、あなた、斎藤 秀明のイマジナリーフレンドです。今まで言えなくてごめんね」
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