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日本人と勲章の歴史:序


天皇皇后両陛下と英国チャールズ3世国王カミラ王妃

天皇皇后両陛下の国賓訪英に伴い、英国のチャールズ3世国王陛下から天皇陛下にガーター勲章が贈られたことは、記憶に新しい。

ガーター勲章は英国の最高勲章として世界的にも有名で、過去のガーター勲章勲爵士にはチャーチルやサッチャーなどの著名な政治家が名を連ねている。英国王室と繋がりの深い西欧の王侯に対しても贈られているが、非キリスト教君主に対して贈られることは極めて稀で、日本の天皇には明治天皇から今上天皇まで5代にわたって贈られたことは特筆すべき事象である。ガーター勲章については、君塚直隆の『女王陛下のブルーリボン: 英国勲章外交史』に詳しいので、参照されると良いだろう。

国王陛下からガーター勲章が贈られたのと同時に、天皇陛下からも国王陛下に対して日本の最高勲章が贈られたことについては、メディアの言及が少ないように思われる。


大勲位菊花章頸飾

日本の最高勲章は大勲位菊花章頸飾といい、頸飾型(ネックレス)の勲章で、存命中の日本人でこの勲章を持っているのは、天皇陛下と上皇陛下のお二人だけである。この大勲位菊花章頸飾が、今回の訪英に伴って国王陛下に贈られた。

大勲位菊花章頸飾は国賓として来日した外国の君主に贈られることが定番となっており、2019年の天皇陛下の即位の礼では、各国の君主たちがこぞって大勲位菊花章頸飾を佩用(勲章を身につけること)して参列したため、勲章マニア界隈がざわついたのは記憶に新しい。ちなみに、現国王のチャールズ皇太子は大勲位菊花大綬章という一つ下の勲章を佩用していた。これは当然、当時の英国君主がエリザベス2世女王だったためであり、そのエリザベス女王は当然、大勲位菊花章頸飾を所持していた。


頸飾を佩用するスペインのフェリペ6世国王夫妻とオランダのウィレム=アレクサンダー国王夫妻

欧米諸国では、post-nominal lettersと呼ばれる慣習が存在している。これはオフィシャルな場所で名前の後につけられる肩書きのようなもので、例を挙げると、

  • Sir Brian Harold May, CBE
    サー・ブライアン・ハロルド・メイ、大英帝国勲章コマンダー
    (ロックバンド「クイーン」のギタリスト)

サー・ブライアン
  • Sir Anthony Charles Lynton Blair, KG
    サー・アンソニー・チャールズ・リントン・ブレア、ガーター勲爵士
    (英国の元首相)

サー・トニー
  • Sir David Attenborough, OM, GCMG, CH, CVO, CBE, FRS, FSA, FRSA, FLS, FZS, FRSGS, FRSB
    サー・デイヴィッド・アッテンボロー、メリット勲爵士、聖マイケル・聖ジョージ勲爵士、コンパニオン・オブ・オナー勲爵士、ロイヤル・ヴィクトリア勲爵士、大英帝国勲章コマンダー、王立協会フェロー、ロンドン考古学会フェロー、王立技芸教会フェロー、ロンドン・リンネ学会フェロー、ロンドン動物学会フェロー、王立スコットランド地理学会フェロー、王立生物学会フェロー
    (動物学者、英国の自然科学研究・教育の第一人者)

サー・デイヴィッド

となる。要するに、名前の後に授けられた勲章や名誉学位などを羅列している。アッテンボロー博士の例は特に長大なので、この慣習を示すのにぴったりである。

このように、英国ひいては欧米では授与された称号を重んじる文化があり、一般の人々もこれを目にすることで勲章や称号を自然に意識することになる。

一方、日本で勲章の話題が出るのは、春と秋の定例叙勲の時以外にはほぼない。しかも、叙勲されるのは70歳を過ぎて一線を退いた、所謂大御所やご隠居と呼ばれる人々であり、若い層にとって勲章は極めて遠い存在となっている。

前置きが長くなったが、これから数回にわたって(どれぐらいの長さになるかわからないが)、日本の勲章、栄典制度についてnoteで書いていきたいと思う。

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