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『実況力』第一章3 資料作りのアプローチ

(前回からすっかり間隔が空いてしまいました。すみません)

今回は資料作りのアプローチについて。

資料作りは放送(中継)に臨む際に欠かせない下準備のひとつだ。
この作業に費やした時間と粘りは
説得力となり、相手を納得させる根拠になる。

信憑性が高い情報ほど自信を持って語ることができるのは
放送でも実生活でも同じだ。
確実な情報であれば言い換えも可能になる。
自分の使いたい言葉や表現に変えて
時に柔らかく、あるいは厳しく、ユーモアを交えることもできる。

ファクトチェックが十分にできず
断言できないあやふやなレベルの情報(話題)でさえ
資料作りを繰り返し行うことでその利用の仕方がわかってくる。
”あやふやな情報”として断りを入れた上で使うのであれば
参考資料として使用したり
どこまで割り引けば使えるのかがわかってくる。
資料作りは試行錯誤の果てしない繰り返しから
自分だけの情報ツールを選んでいく作業なのだ。

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では、どうやってベースとすべき信用性の高い情報に行き着くか?

信頼できる情報のソースを見つけ出すには
そのジャンル(競技)の理解度をあげるしかない。
可能なら指南役がいると目的地に着くスピードが変わる。
僕の経験はかなり特殊で恵まれたものだが、
みなさんが参考になることもあると思うので書いておく。

僕は文化放送の報道部でお世話になった時代があって
経験豊富な先輩たちから多くのことを学ぶことができた。
それまでは地方ラジオ局の報道しか知らなかったから、
国会にも警視庁にも裁判所にも初めて訪れた。
知らないことばかりだった。
この国の報道がどういった仕組みで出来上がっているのか、
いくつもの中枢を目にすることができたのは幸運だった。

大きな裁判を傍聴し、殺人事件の現場にも取材に出かけた。
大きなメディアたちの力と弱点を目の当たりにしつつ
たくさんの情報と向き合う日々が続いた。

また、その後、スポーツニュースの読み手としてではあるが
NHKで夜7時台のニュース番組を10年ほどお手伝いできたのも
メディアの仕組みとニュース作りを知る上で大変勉強になった。

報道とは何か?
それは取材する権利を与えられたものが
その義務を果たすことだ。
真摯にそのジャンルを継続して学んだものが
本質を知るものの目線で
分け与えるべき情報を公平に伝える仕事だ。

良い小判しか触ったことのない者は
偽物に違和感を抱いて見分けがつくようになるというが、
ニュース記事も各社が発表したものを多く読み続けていくと
これは取材が浅いとか、憶測で書いている部分があることに
気付けるようになる。

まずはたくさん見ること、読むことから始めることだ。
大事なのはボリューム。
スマホの限られたスペースには
別な知識や想像力をかきたてる遊びはない。
新聞や雑誌の紙面の方が資料作りの目を鍛えるのには
向いている。
乱読、おおいに結構だ。
例えば新聞なら一般紙、スポーツ紙、タブロイドなど
あらゆるものを3か月毎日欠かさず読んでみるといい。
すると気付きがあるはずだ。

信頼できる記者は誰か?
信頼できるメディアはどれか?
どのジャンルに詳しいのか?
あるいはこのジャンルに関しては、という条件付きで
信頼できる記者やメディアがわかるようになる。

ファクトチェックにはきりがない。
だから複数の情報を確認しないと危険だ。
情報のソースも聞かれたら答えられるようにしておく。

ビジネスでは人の集めた資料を利用することも多いと思う。
スポーツ中継でもそれは一緒だ。
その際、留意すべきは誰が作ったのか?
という顔を思い浮かべることだ。
資料には必ず癖(個性)がある。
バイアスもかかりやすい。
だから、自分でも作ってみて
その資料を作成した人間の思考を辿れるようにしておくことが
大切なのだ。

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情報は幅広く集めることが基本。
自分で作ってみる経験は不可欠。
その際には進んで苦労すべきだと思う。

中継の際に使用する資料には大きく分けてふた通りある。
”動かないもの”と”動くもの”だ。

”動かないもの”は勝ち負け、順位など間違えてはいけない数字だ。
これらはクラブや大会の公式サイトなどで確認する。
レギュレーションも視聴者と共有しておきたい。
開催地についても知っておきたい。
各国の観光庁などの情報は使いやすい。
地理的な情報、歴史、気象に関する情報の正確性は
ここが責任を負ってくれる。

”動くもの”は主にコメントだ。
監督、選手の記者会見でのコメント。
クラブが発表した公式の情報や選手のパーソナルな情報に加え
各国の大手メディアの記事は情報の宝庫だ。
怪我人の情報、過去の対戦のエピソードなど。
ただ、現地メディアの情報はよりファクトチェックが必要になる。

資料は、”確かな情報”、”ややあやふやな情報”、”信用できない情報”
というようにカテゴライズして放送で使い分けるために分類する。

それから、中継でもプレゼンでも
時間帯によって分類することを推奨する。
冒頭に使うもの、試合開始前、ハーフタイムなど
いつどんな風に紹介するかを想定しておくと良い。

一つ上のレベルの分類になるが
解説者のタイプによる話題の使い分けもある。
相手が気持ちよく喋れる話題を探しておく。
ビジネスでもそういう気配りが求められる。
この分類はなかなか難しいが慣れてしまえば進行は楽になる。

可能なら最後の資料は手書きで。
書くことで資料は頭の中で整理され直し、記憶され
やっと使える状態に変わっていく。

情報集めはイマジネーションが大切でそこに個性が出てくる。
何を調べるか?
どこを切り口にするか?
そこでスピードが決まる。

では、資料集めを始めてみよう。
速読は上級者のスキルだ。
はじめは時間がかかる。
だが、そこが発見につながる。
先に速読を覚えると資料はひどく味気ないものになる。

資料作りは経験値によって
辿り着く位置とスピードが驚くほど変わる。
積み上げた時間が自信になる。

資料作りで一番大切なことは何か?
それは覚悟だ。
折角作った資料だが、現場で仕事が始まったら
持ち込んだ資料を全部捨てる覚悟がないといけない。

中継もビジネスのプレゼンもライブだ。
目の前で起こることがすべて。
展開が面白い試合ほど資料の出番は少ない。

だが、たとえ資料の1割しか紹介できなくても
徒労に終わったとは思うことはない。
賭けた時間と労力は必ずあなたの力になって蓄えられていく。



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