安岡

ライター。バトンズの学校(batons writing college)1期生。

安岡

ライター。バトンズの学校(batons writing college)1期生。

マガジン

  • 安岡さんとくーこちゃんのエッセイラリー

    • 7本

最近の記事

皿のような目で、世界を見て

「会社から2時間以上かけて歩いて、ようやく渋谷に着いたよ」 17時すぎ。電話口から、くたびれた父の声がする。 「東北が大変みたいだね。今日は、東京も電車は全線動かないんだって。だからパパは歩いて帰るね。ここから家まで、何時間かかるかわからないけれど…」 受話器に耳を押し当てながら、私は横にあるテレビの方を向いている。「緊急ニュース」。三陸の海。指先が、しんしん冷えていた。 ❖ 中学時代の記憶は、全体にぼんやりしている。けれど中学生3年生の、3月11日の夜。やっとつな

    • お茶に忠誠を誓っていた頃

      親友同士でつなぐ、交換日記的エッセイラリー。 今回のキーワード▶▶お茶 ーーーー 2018年のわたしは、お茶に忠誠を誓っていた。 当時、わたしは広告代理店の営業職で、大手飲料メーカーを担当していた。 毎日毎日、担当する飲料メーカーのために動く日々。昼夜問わず、頭のどこかにはいつもその飲料メーカーの存在があった。 代理店の営業職には、身につけるべきことがある。それは担当する商品への愛だ。わたしも今振り返ればいい営業だったみたいで、担当する大手飲料メーカーのあらゆる商品

      • 「1年中、自分にうんと期待する」

        親友同士でつなぐ、交換日記的エッセイラリー。 今回のキーワード▶▶約束 ーーーー 2022年の秋頃まで、わたしの人生には、どこかリハーサル感が漂っていた。 6年間のダンス部生活。受験勉強。大学時代に明け暮れた放送研究会。 広告の仕事に、出版の仕事。恋や友情、遊び…あれこれ。 さまざまなことに、結構な時間とエネルギーを費やした。夢中だったし、本気だった。あるいは緊張感の中で、全神経を使って必死に取り組んだ。 でも、その渦中でさえわたしは「来たるべき本番」のことを考えた

        • 「最高」を探して、へとへとになって

          親友同士でつなぐ、交換日記的エッセイラリー。 今回のキーワード▶▶ 「箱買い」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (うわ、すごい量のストック) これ、全部柔軟剤? わたしは思わず、段ボール箱の中を凝視した――。 2019年、世間がラグビーに湧いていたあの夏。会社の先輩に「うちで、ラグビーを一緒に見ない?」と誘われ、とことこと遊びに行った。 まず、手を洗わせてもらおう。そう思って洗面所をお借りしたとき、ふと、脇に置かれた大きな段ボールが目に入

        皿のような目で、世界を見て

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        • 安岡さんとくーこちゃんのエッセイラリー
          7本

        記事

          予定外のセンチメンタル

          親友同士でつなぐ、交換日記的エッセイラリー。 今回のキーワード▶▶書き留める −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− くーこちゃんの記事にあった私の言葉。 先月、これを改めて痛感した夜があった。 9月の、ある土曜のことだ。わたしは、浅草のはずれにいた。 「乾杯」と言って、懐かしい大学時代のサークルの友人たちで、名物の電気ブランを囲む。久々の電気ブランは、喉が焼けそうなのに心地よい、不思議な味がした。 しばらくして突然、友人のひとりが

          予定外のセンチメンタル

          この上ない夜 

          「たぶんいつか、この夜のことを思い出す」 帰り道、電車やタクシーの中でそう思うことがある。そして、そんな夜のことはたいてい本当に、ことあるごとに思い出す――。   バトンズの学校(batons writing college)の1期生としての時間が、たったいまひとつの区切りを迎えた。この1年足らずの時間は思った以上に心を揺さぶるものだったから、私は今夜、ついセンチメンタルになってしまう。 最初、自分の書くものにやたら自信があった私。 そして、自分の書くものが、決して

          この上ない夜