ねむたげな

やがて時が満ち 潮の満ち引き
意味合いと夜躑躅よるつつぢ 必要あつて
ある なもかも

或るひとの翳 椿の唇はぢめんに向き
それをなぞるように つまさきが
つまさきが 緩つくりと 円を描く

他所のテレビヂョンのあがらない解像度
嘆くよりも ただ 深呼吸をして
瓔珞躑躅やうらくつつぢを チョンチョンと
もてあそぶゆびさきのほほえみ
あさつゆのやうな あくびのこへ
(地平線から宇宙のあることを報せる天道様)

かはりのない ゐのち
とことはのみょうじゃう 洗濯竿にさへ
あまつゆをそそぎ 凪がぬこころを
とりあゑずは 鎮めてみせる

わしは    になるかのう
それとも
ひとさまの役にたつりつぱなおひとになるかのう
おまへさん どうおもふ?

小夜更く溟い農村のかたすみ
表情は翳りの中で鈍くひかつて見えなひ
「おまへは どちらがエエのんヂャ」
翳のこへはやけに低く しりしりと床をなぞる

「おまへさん まるで宇宙のやうだのう」
相手と同様 質問にはこたへず そう云ふ
外には掻き傷に似てちりちり痛む濃霧
この時期になればこぞつて咲く菖蒲
サンスクリツト もしくは 音 もしくは 洋酒

瞳孔から諾々と流れ込んでくる意識の水流を
ぐいぐいと飲み込んで 煎じた喉の殻
やぶて むやみやたらに うたひ散らすいろは
まどのそと きょだいな 漆黒
これらは何と呼ぶのだらうか
さうだ これは夜 もしくは翳だ

あゝ あいしてゐる
だうしても
またあたまひとつぐらぐらとゆらして
ぐらぐらとゆらして喋ッた
をまへたち
じゃまをしやうもンなら食ふてしまうからね
につこりとわらう吾がのくちは
春の木漏れ日の にほひを ひさ

わし 窓の外の溟闇と話しておつたのか
あさまでずうと
ホレ その証拠に 座布団のうへに
尻の形に翳だけを置いていつた

ちらちらと ゆれる
ちいさなひかりのやうに
記憶は揺蕩つて ぽたぽたと消へた
未消化の思ひ 蓮の花にくるんで
濡れたくろつちをゆびさきで掘って
そっとそのあなのなかに 沈めた

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