六月八日


簡素な木枯らし、まだ夜は寒い。
象牙色の饒舌も考えものだね。

切符の長い願い、贖ゐとうがひ。
泣き虫なのに強がりだから、ね。

無くなった整髪料の容れものを捨てる時の
仕組みと仕草に悩みつつ、
また月夜の納屋での密通。

林檎の花びらが揺れ、
斜めの岩肌には苔に似た天鵞絨歯朶の幽靈。

地球八十億のアイソトオプ、違う、全部が違って似ている。
新緑は黄緑に染まっているところと翳になっているところがあって、水の畔りに蛍がくゆらせた発光の仄溟さ、硝酸塩鉱物としての靈の結露。

淋しさと沈黙と詩情、白き桔梗の深刻。
連想した果樹園に立ち尽くしてゐる。
馨りが凝縮された鮮やかな息継ぎ。
シャボン玉のやうだ、蜥蜴の肌のやうだ。

しのびあしの寝室、傷つひた胸、うなだれた沈丁花、ノヰジイなの心の裡。見せてあげなひ。

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