グラグルの北西部、洗髪の塔の見える小高い..



グラグルの北西部、洗髪アラヒガミの塔の見える小高い丘でマニョーラとは待ちあはせてゐた。

その丘には、夫を亡くしてから女手ひとつで子供六人を立派に育てたレツトル・ダムウル夫人が美しい庭のある展望台付の家に暮らしていて、僕はその鉄扉ごしに見える百日紅の水中を漂う、金魚のような花たちの碧瑠璃色ヘキルリヰロの風に揺れる様や、その手前の色濃くつやつやと輝く葉の反った背中を見るともなく見ていた。

ダムウル未亡人の家のベランダには山登り用だろうか今では少し珍しい着茣蓙やリネンの夏衣、開襟(これは息子のものだらふ)などが干してある。
小瑠璃が白い腹をふくよかにふくらませて一聲、節をつけて歌つたかと思えば、すぐに単なる青めいた斜線となって飛びたつた。

口実めいた理由も説明もこの丘まではやつてこれなかつた。そよそよと前髪と遊ぶ夏至の空気を食べてみるとさはやかで薄甘かつた。美しい青と洗髪アラヒガミの塔を背にマニョーラの笑顔はあまりに印象的なのだ。

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