よだちの空白、にほひの湿ってゐること、なぜだか泣きさふで。


言の葉の舞う朝に少しずつ暑くなってきた気候を味はゐ、庭苑てゐえんをのぞむ。

枯れかけの春の花々や、もうすっかり青々とした葉とそれに付随ふづいする葉脈やうみゃくを透明な水、それもとても澄んだ清流を固めて琥珀のやうに幾千万の歳月眠らせた宝石、美しい宇宙の果てからやってきた珍しい鉱石のやうな夏の輝きに晒し惜しげもなく見せてくれる植物たち。

花盛りを終へても、をまへたちは未だふつくしひままなのだね。

触れた流星、名残惜しく、波の砕ける音、やけに廣すぎる国道沿い、喉のかはきと数平方にも満たぬのに胸を締め付ける愛をしさ。

木下闇に麻織の開襟シャツ、老鶯の口車に、閑かに耳を傾ける。よだちの空白、にほひの湿ってゐること、なぜだか泣きさふで。

首筋に濡れた地平線ひっつけていた。あはあはと、実に淡々とした青が泡のような指先。

恋知らぬまま逝く蛍の哀しさ、たるや。

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