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性と死が沸き立たせる臭い 「蛍火艶夜 上」

数ヶ月前。検索や閲覧履歴を踏まえて、こちらの指向を熟知しているであろう検索サービスが、ご丁寧にもこの作品の広告を表示してくださった。

パラパラとサンプルを見たものの、「あまり心が動かされなかった」というのが正直な感想だ。しかし、先日ふと話題に上がったので、チェックしてみて、驚いた。

この作品が読む人の心をどうして揺さぶるのか。「上手く言葉にできないが、語りたい」という衝動にかられる作品だ。

・あらすじ
1945年3月、特攻隊員の取材をするためにカメラマンの淀野は徳島を訪れていた。そこで、宣伝用に使える「若者の憧れるようなかっこいい兵隊」を探していた彼は田中志津摩と出会う。

取材を重ねていく中で距離が縮まる二人。そして、ある夜に淀野は志津摩が身に付ける黒い襟巻きについての由来を聞くことになりーー。

著者は高校ラグビーをテーマにした「ALL OUT」、「ここは今から倫理です」を手掛けた雨瀬シオリ。

本作品はオムニバス形式で田中飛曹とカメラマンの淀野、橋内中尉と塚本整備兵、そして八木中尉と田中飛曹の関係を描いていく。

・極限状態における心と身体のやり取り

軍隊内での代替的な性処理としての性行為が、ガッツリと描かれていることもあり、ゲイでもエロ目的で楽しめる作品。

とはいえ、心の交流がない訳ではない。例えば、今まで消費されるだけだった橋内中尉に歓びを刻み込もうとする塚本整備兵の献身は微笑ましい。途中にギャグも挟まれており、軽快だ。

そして、田中志津摩である。彼は一見、純粋無垢な存在だ。しかし、話が進んでいく中で、志津摩はそれだけではない姿が、徐々に明らかになっていく。

元々、その癖があったであろう淀野だけでなく、八木中尉、そして明示されている訳ではないが、姉の夫である夫を狂わせる。その「ヤバさ」の根源は何なのか。

ぜひ、読んであなたの目で確かめて欲しい。

・そこまで深い意味はないのかもしれないけれども

それにしても出版社は、こんな題材をウェブ雑誌であるとはいえ、よくも掲載を決意できたと思う。

だが、コミックシーモアのサイトに、男性同士の作品を初めて買ったという男性読者の感想も書かれていた。

未知の世界に足を踏み入れさせる何かが、そこにはあるのだろうか。

もしかしたら、編集部も見る者を引き込む田中志津摩という男の魔性に魅入られてしまったのかもしれない。

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