見出し画像

バリ島 音楽と芸能の旅2024 -2.ガムランを学ぶ(音楽理論編)


1.Dewa Raiさんからガムランを習う

今回のバリ滞在にはいくつか目的がありました。その中の大きな一つは、ガムランを現地の方から少し習うということでした。というのも、前回2018年の国際交流基金アジアフェローで1ヶ月半バリに滞在した際は、リサーチなど見聞きすることがメインでした。後半に紹介するリンデックという竹の楽器は習うことができたのですが、いわゆるゴン・クビャールと呼ばれるバリガムランの中心的な楽器を学ぶ機会はほとんどありませんでした。
帰国後、日本でまずはジャワガムランから習い始めたのですが、半年ほど前からバリガムランも習う機会を得られたところだったので、今回はより一層、現地で習ってみたいという思いが強くありました。

今回教えていただいたのは、Cudamani(スダマニ)楽団という、素晴らしいガムラングループのリーダーの一人、Dewa Raiさんです。2018年の滞在時にちょうど Cudamani楽団のサマーフェスティバルがあり、3日間のコンサートに毎晩通いました。そしてその、ものすごく高い演奏技術と力強いグルーヴ、皆が本当に楽しそうにイキイキと演奏する姿に深く深く感銘を受け、すっかり彼らのファンになってしまったのです。

彼らは家族が母体となっているグループで、長男でリーダーのDewa Berataさんを筆頭に、兄弟皆音楽家で、その親戚や子供たちなど一族を中心に、たくさんのメンバーで構成されています。そして、もちろん伝統音楽を母体とし、儀礼やお祭りで演奏したりもしますが、新しい作品作りにも熱心で、そのサマーフェスティバルでは、今回習ったDewa Raiさんの作曲したガムラン曲など、新作も演奏されるなど、現代的なパフォーマンスにも長けています。その際聞いたDewa Raiさんによるグンデルの作品は、バリのグンデル奏法にはない、非常に柔らかな繊細な音色で、もしかしたらジャワのグンデルのバチを使っていたのかもしれませんが、だんだん消え入るように小さくなっていく曲で、とても美しく、大変刺激を受けました。
また、Cudamaniのメンバーとしては活動していませんが、三男のDewa Alit氏は非常にコンテンポラリーな表現活動をしており、その活動は海外でも高く評価されています。

さらにCudamaniは、後進の育成にも積極的に取り組み、数多くの子供たちが日々楽器や踊りを習っています。

Cudamaniキッズクラスの様子

リーダーで長男のDewa Berataさんは、いかにも長男らしく統率力があり、頭もよく、英語も上手で、前回滞在時も非常によくしていただき、いろんなことを話して聞かせてくださいました。ガムラン音楽の哲学や、その社会的意義、バリ人の考え方など、Berataさんのお話からさらに学びが深まりました。今回も始めはBerataさんからガムランを習えないかと連絡を取ったのですが、ちょうど私が計画していた日程はサンフランシスコに行っているということで、残念ながら習うことは難しいようでした。代わりに四男のDewa Raiさんに習うといいと言われ、今回はRaiさんから習うことになりました。

私はガムランを習う、と言っても、作曲家なので何か特定の楽器の奏法を教わるというよりは、バリ音楽の構造とか、コテカンと呼ばれるインターロッキングのパターンとか、少し理論を教えてもらえないかと思っていました。日本人のバリ音楽研究者や、ガムランに関わる方達にそんな話をすると、もちろんCudamaniのことはよく知っているので、みんな口を揃えて「Berataさんはそういうの得意だけど、Raiは天才肌だから理論の説明とかできるのかなあ?」と笑いながら話すのです。長年バリに通う方はRaiさんがずっと若い時から知っているのもあり、末っ子ゆえに愛着を込めてそういう印象を持ったのかもしれませんが、それを聞いて私もどの程度習えるか未知数だけど、まあとにかく行ってみるしかないなと。というのも、事前にRaiさんに連絡を取ったのですが、全く返事がなく笑、心配になりBerataさんに聞いてみると「Raiはメッセージの返信とかしないから笑。とにかく行ってみて!」と言われ、アポなしで楽団のスタジオに乗り込みました!

結果、Raiさんとすぐに会え、事情を話すとレッスンしてくださることになりました。私が楽器じゃなくて理論を習いたいと話すと、ちゃんと理解してくださり、滞在中2回に渡ってレッスンしてくださいました。

どんなことが習えるか、未知数でいったのですが、Raiさんはまずガムランにおけるペロッグ音階とスレンドロ音階の種類から説明してくれて、私の今までの知識になかった、バリガムランのペロッグ音階には3種類、スレンドロ音階には2種類の音階があるなどの事実を知ってびっくり!
それ以外にも、コテカンと呼ばれる、二人で合いの手のように音を組み合わせて演奏する手法の様々なパターンとその名称などを、一緒に楽器を弾きながら説明してくださり、曲の形式や構造についても説明していただき、大変有意義な学びとなりました。
皆さんの予想に反してRaiさん、しっかり理論の指導してくれましたよ!笑

Dewa Raiさんのレッスン風景

まだ私もバリガムランは習いたてで、だんだんハイスピードになっていくRaiさんの演奏について行くのが必死だったり、バリガムランの場合、楽譜がなく全て覚えながら弾いていくので、なかなか旋律のパターンが覚えられなかったり、自分の力不足が悔しい部分もありましたが、私にとって憧れのミュージシャンと、一緒にガムランを弾く経験ができるなんて!夢のような時間でした。
まだまだ本当に入り口の一部のみですが、バリガムランの構造が少し見えたので、これからは古典曲を習うときに、あっここは〇〇というパターンだ、などと分析して捉えることができそうです。

そして、一番印象的だったのは、Raiさんがいつでもニコニコと本当に楽しそうに演奏していることです。私みたいな初心者と一緒に演奏していてさえ、です。本当にガムランが、そして音楽が好きなんだなあと実感させられました。彼はいつ始めたか記憶がないほど小さな頃からガムランに触れているはずです。毎日のように楽器を弾き、音色を聞き続けていても飽きるということはなく、ますます好きになっているようにさえ見えました。それから自身の新しい創作についても、目を輝かせて話してくださり「この理論は古典の理論だけど、あなたが新しく曲を作るときは、どんなふうにアレンジしてもいいし、例え3拍子だろうが5拍子だろうが自由なんだよ。」と言ってくれました。彼もいろいろな新しい挑戦をしているようです。
こんなにもカッコいい、刺激をもらえるミュージシャであり、ガムラン作曲の大先輩と出会えたこと、心から感謝です。私も負けじと学び(もちろん一生かかっても到底追いつけませんが^^;)、ガムラン作曲にも取り組んで、次回会ったときには、作った曲を持って行って、聞いてもらえたらと思っています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?