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てめえマジシャン絶対許さないからな


2014年、春。当時大学1年生だった私は、所属するサークルを決めかねていた。最終的な候補は3つだ。講義やバイトとの兼ね合いも考えると、2つ程度に絞っておきたい。ふと携帯を確認すると、1通のメールが届いている。


『来週キャンプをやります!新入生無料!』


いわゆる、"オールラウンドサークル"からだ。そこは候補の1つでもあった。貰ったばかりの大学手帳で予定を確認する。うん、大丈夫そうだ。参加する旨を返信するとすぐに、『了解!ありがとー!』と当日の詳細が送られてくる。あと1つのサークルはどちらにしよう、そう考えながらその日は眠った。


キャンプ当日。先輩の車で現地に向かう。キャンプ場に着くやいなや、ドッジボールやドロケイ等、小学生みたいに遊びまくった。気づけば夕食準備の時間になり、班に別れてカレーを作ることになった。美人な先輩が明らかに異常な量の着火剤を使って火を起こしていたのが印象的だった。


「待っている間、マジックでもどう?」


ひと段落ついて休憩していると、同じ班の1人の先輩が話しかけてきた。あ、はい。と返事をして、近くにいた友人を呼び寄せる。他にも何人か集まってきたが、皆新入生だった。サークル内では見慣れた光景なのだったのだろう。


マジさん(そう呼ぶことにする)はおもむろにトランプを取り出すと、1枚のカードを私に選ばせた。確かクラブの2だったと思う。それをトランプの束の真ん中に差し込む。指を鳴らして1番上のカードをめくると、差し込んだはずのカードがあった。


すごい。


素直にそう思った。マジさんはマジックを続ける。その度に歓声が上がる。目の前で見るマジックってこんなにすごいんだ。そろそろ最後なんだけど、とマジさんはクラブの2を勢いよく破く。紙切れとなったそれを地面に置き、指をこする。すると白い煙が出てきた。


「カードは煙があがっているところに瞬間移動したよ」


破かれたカードはクラブの2ではなかった。近くではカレー鍋が白い煙を出している。まさか。カレー鍋の中にはシワシワのカードがあった。クラブの2。すごい、すごい。驚きのあまりしばらく放心していた。


その後、カレーにトランプを入れるな、とマジさんは他の先輩に怒られていた。しかし私にとってそんなことは些細な問題だった。このサークルに入って、この人にマジックを教わろう。カレーを食べながらそう誓った。






その後私は腹を下した。汚いキャンプ場のトイレに2時間半こもることになった。カレーにトランプを入れるな。サークルは無事に決まった。二度とマジさんと会うことはなかった。

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