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日本がアメリカや中国に対抗するために(『世界史の構造的理解』3/3)

長沼 伸一郎『世界史の構造的理解 現代の「見えない皇帝」と日本の武器』を読んだ。

世界史を独自の構造的な視点で捉え、日本がこれから進むべき道を検討している。ここ数年の中でも、最も読み応えのある本であった。まだ消化できてないところが多いが、印象に残り、より深めていきたい3箇所をコメントとともにまとめておく。

今日は3つ目。

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今のグローバル資本主義で、日本が中国やアメリカに対抗する手段を私は思いつかなかったが、本書では1つの提案をしている。

まず米国を相手にする場合には、第四章で述べたように、米国文化が根深くもつ「部分の総和は全体に一致する」という思い込みや「調和的宇宙=ハーモニック・コスモス信仰」という特有のドグマを突くことが戦略の鍵となり、これはブルーウォーター・ネービーへの挑戦である。一方中国を相手にする際には「官への依存度が極度に高いグリーンウォーター・ネービーの弱点を突く」という態度で臨むことが戦略の基本となる。具体的に言うと、その際には日本側では、なるたけ独立精神が強くて国の統制に従わない一種の「知的な跳ね返り者」が主力になって、全体の構図を「官より私的組織の力が強い国のほうが優位に立つ」というかたちにもっていくことができれば、中国側はそれに追随できずに弱点を暴露しやすいと考えられる。長沼 伸一郎. 世界史の構造的理解 現代の「見えない皇帝」と日本の武器 (Japanese Edition) (pp.239-240). Kindle 版.

これも、かなり本質的かつ、具体性のある提案で興味深い。

私は哲学を学んでいたが、たしかに、アメリカの哲学の根本は、プラグマティックで、分析哲学が主流であり、あらゆる事象を言語的に明快に説明しようとする。一方の大陸哲学のような深遠さ、無知の知的な謙虚さがない。

また、中国はどんどん政府主導で最先端の技術に莫大な投資がされているが、一党独裁体制というのが技術の深化という点でも弱みになるというのは盲点であった。

その理由も先ほどのものとどこか似ており、国立の大きな研究機関というのは、とかく斟酌・忖度しなければならない相手が多い。また国から供給される多額の予算が、先ほどの君主の命令書のようにかえって自由を縛りやすいことも、しばしば指摘されている。そういう鈍重な状態では自由な発想も生まれにくく、知的制海権の最大の力である機動性も発揮しにくいと考えられるのである。長沼 伸一郎. 世界史の構造的理解 現代の「見えない皇帝」と日本の武器 (Japanese Edition) (p.238). Kindle 版.

また、最終的には、理系的世界観で、世界を把握した上でのガチの戦略が必要であるという、至極真っ向からの提起がなされている。

人類の思想を動かす力をバックにしていなければ最終的には勝つことはできないのである。それはいわば知的制海権とでも呼ぶべきものであり、実際にそこを制するには結局は物理学の宇宙観までを含む学問の世界の覇権が必要で、政治家や企業などの「陸側」の勢力や文系の頭脳だけでは手に負えないものなのである。

私には、理系的な議論にはついていく力がないが、ただ、戦略を立てるなら、環境分析から始めるのが普通だろう。

今、日本は地球を超えて、宇宙まで含んだ世界を言語的に把握し、それをベースに戦略を立てているようには到底思えない。逆に中国だとその国家戦略に宇宙とか科学とかが頻繁に出てきて、その内実はわからないが凄みを感じてしまう。


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