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おさえたい7つの数字【過労死等防止対策白書2020】

2020年10月30日(金)に、政府は、「令和元年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(令和2年版過労死等防止対策白書)を閣議決定し公開しました。

この「過労死白書」について、おさえておきたい7つの数字でポイントを解説します。

「過労死等防止対策白書」とは?

過労死等防止対策白書について厚生労働省のHPには以下の記載があります。

過労死等防止対策推進法(平成26年法律第100号)第6条に基づき、国会に毎年報告を行う年次報告書で、過労死等の概要や政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況を取りまとめたものです。
(出典:過労死等防止対策白書 |厚生労働省

2020年10月に公開された令和2年版は、平成28年版、平成29年版、平成30年版、令和1年版に続く、5回目の白書となります。

過労死等対策における日本のKPI

日本は過労死等の対策として、7つのKPIを設定して政策を実行しています。その7つの指標は以下の通りです。

これらは2018年7月24日に閣議決定された『過労死等の防止のための対策に関する大綱』に規定されています。

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当たり前のことですが、国の政策もKPIを策定して、定量目標が改善しているかどうか毎年チェックしてPDCAサイクルを回しているんですね。

【過労死等の防止のための対策に関する大綱の数値目標】
1.労働時間については、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とする(2020年まで)。なお、特に長時間労働が懸念される週労働時間40時間以上の雇用者の労働時間の実情を踏まえつつ、この目標の達成に向けた取組を推進する。

2.勤務間インターバル制度について、労働者数30人以上の企業のうち、
(1)勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を20%未満とする(2020年まで)。
(2)勤務間インターバル制度(終業時刻から次の始業時刻までの間に一定時間以上の休息時間を設けることについて就業規則又は労使協定等で定めているものに限る。)を導入している企業割合を10%以上とする(2020年まで)。

3.年次有給休暇の取得率を70%以上とする(2020年まで)。
特に、年次有給休暇の取得日数が0日の者の解消に向けた取組を推進する。

4.メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上とする(2022年まで)。

5.仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上とする(2022年まで)。

6.ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上とする(2022年まで)。

出典:過労死等の防止のための対策に関する大綱

多くの指標が、2020年または2022年の達成を視野に入れて目標設定されているため、2020年度の『過労死等防止対策白書2020』ではそれらの数字を注意深く見ていくと政策の成果の進捗状況が理解しやすくなるかと思います。

おさえておきたい7つの数字

それでは早速、『過労死等防止対策白書2020』でまとめられた情報のうち、おさえておきたい7つの数字をみていきましょう!

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令和2年版の過労死白書の中でおさえておくと良さそうなポイントはこちらの7つです。1つずつ概要をさらっていきます。

【1】週労働時間60時間以上の割合:6.4%

過労死等の防止のための対策に関する大綱にて「5%以下」が目標値と定められている週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、「6.4%」でした。加工傾向あるものの、目標は達成していない状況です。

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週60時間以上働いているということは、約20時間の残業をしているということです。月あたりにすると、過労死ラインと呼ばれている「約80時間」になります。週労働時間60時間以上の雇用者の割合が6.4%ということは、「1,000人いたら64人が長時間労働による過労死リスクが高い」ということを意味しています。

平成20年(2008年)までは、10%なので10人に1人が過労死ライン水準の長時間労働をしていたことになります。この数字を「20人に1人」まで減らすことが政策目標です。

【2】労災認定した自殺事案の未受診割合:60.5%

白書の中で印象的な数字の1つが、労災認定した自殺事案の未受診割合でした。なんと60.5%もの方が、医療機関を受診していないのです。

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自殺というと、精神疾患を抱えて通院もしている人や重い病気を抱えている人がするものというイメージを持っている方も少なくないかと思います。しかし、実際には労災で自殺する人の10人に6人は医療機関を受診せずに自ら命を絶ってしまっているということです。

自殺を予防するアプローチとしては、医療機関を受診する前段階で職場や家庭などの日常生活の中にアプローチしていく必要があるということを意味しているかと思います。

【3】勤務問題が原因の自殺:1,949名

令和元年度の警視庁の自殺統計原票データに基づいた自殺者総数20,169名のうち、「勤務問題」が原因の1つだった自殺者数が1949名でした。

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自殺者総数は減っており、「勤務問題」が原因の1つの自殺者についても上記のグラフを見ると減少傾向にあることが伺えます。しかしながら、その比率は増えてきています。

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自殺者総数のうち、「勤務問題」が原因の1つとするものの割合は令和元年で9.7%でした。比率はこの10年間で右肩上がりに増えてきています。

【4】年次有給休暇取得率:52.4%

年次有給休暇について、政府は2020年までに年次有給休暇の取得率を70%以上とすることを目標としています。その結果は52.4%と目標未達成で着地しました。

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興味深いのが、20年前と同じ水準に戻ったレベルであることです。上記のグラフを見ると、平成9年は年次有給休暇の取得率が53.8%でした。そこから徐々に減少し、直近数年間は平成26年から増加に転じています。

【5】勤務間インターバル制度導入企業割合:3.7%

勤務間インターバル制度(終業時刻から次の始業時刻までの間に一定時間以上の休息時間を設けることについて就業規則又は労使協定等で定めているもの)について、政府は2020年までに制度導入企業の割合を10%以上とすることを目標としています。その結果は3.7%と目標未達成で着地しました。

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「制度を知らない」と回答した企業は15.4%です。認知度については目標値である20%未満を達成しています。

【6】精神障害の労災請求:2,060件

業務が原因とされた精神障害による労災請求の件数は金年右肩上がりを続けています。2019年は2,060件の請求がありました。昨年度の1,820件と比べると240件増加しています。

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このうち労災の支給が決定(認定)した件数は509 件でした。支給決定の件数は2014年(平成24年)から横ばいです。また、509件のうち未遂を含む自殺が88 件でした。自殺についても支給決定の数は近年横ばいとなっています。

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精神障害を理由とする労災の支給決定件数は大きく増えていないものの、請求件数は急激な勢いで増えています。労働者のメンタルヘルスや過重労働について社会的な認知が広まり、労災支給決定の件数も伸びてきたことにより請求の件数が右肩上がりに伸びていることが伺えます。

【7】個別労働紛争相談「いじめ・嫌がらせ」:25.5%

2019年度は総合労働相談コーナーでの個別労働紛争に係る相談「279,210 件」のうち、職場での「いじめ・嫌がらせ」に関する相談受付件数は、87,570 件(25.5%)でした。

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2018年から2019年にかけて労働相談の件数としては、82,797件から87,570件に伸びていますが、割合としては25.6%から25.5%とほぼ横ばいになっています。それだけ他の相談件数が増えていることを意味しています。

労働相談が増えており、ハラスメントがその中でも大きな比率を占めることが伺えます。パワハラ防止法が2020年6月に施行されたため、来年度以降の動向にも注目です。

参考文献(公的資料)

令和2年版過労死等防止対策白書
過労死等の防止のための対策に関する大綱

参考書籍

過労死110番
過労自殺
過労死ゼロの社会を
産業医が見る過労自殺企業の内側

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