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夫の不思議な力

昨晩遅く、電灯潜りに行っていた夫からLINEが来た。
「家の外に塩を置いておいてください」

あ、まただ…大丈夫かな…と思いながら、うつらうつらとしながら2~3時間したころに夫の車の音がしたので、顔を出した。
私「お帰り!もう塩やった??」
夫「やったよ」
私「どうしたの?」
夫 無言
私「あ…聞かない方がいいんだね」
夫 ニコッ(;^_^

こういうことが時々ある。
夫はいわゆる「感じる人」らしい。
見え、はしないが、わかる、とか、感じる、とか、聞こえる、とか。
昨晩も、仲間と潜りに行って早々に何か聞こえたらしく「やばい」と思ってすぐ船に上がったそうだ。でも仲間連れなので自分のせいで早く帰るわけにも行かず、船上で耐えていたらしい。
家に入る前に清めの塩をしないと、と思って、待っている間にLINEしたのだろう。

私はこういう方面はまったく、見えもしないし聞こえもしない。
しかし全般的に怖がりだ。
もう大人だから、お化けとか妖怪とかUMAとか、人が頭の中で作り出す様々な怖いものたちとの付き合い方はわかっているつもりだが、怖い話は聞くのも見るのも嫌だ。わかっていても、私の頭も勝手に怖いものを作り出すからやっぱり怖い。怖いのは不快だから避けている。
その上、私はパニック症を持っている。これは更年期になってからだが、海でも起こる(パニックや更年期との海での付き合い方などはまた別で書きたいと思っている)。

夫はそういう私の状況をよく知っているので、私には詳しく話さない。
私は時々好奇心から、どんなことがあったのか聞こうとするが、夫は決して話さない。聞いたら後悔するくせに…という顔をしてだまっている。
私は想像する。海の中で怖い声が聞こえたら、すぐ後ろから怖いこと言われたら、どんな感じなんだろう…
わ~やめてやめて、想像するな想像するな、私の頭!
もう…怖い…

夫のこういう感覚は、無能力の私にとってはかえって安心感を与えてくれる。
海では、危険を事前に察知する能力なのかな、と思っているので、何か感じたらためらわずやめて帰ってきてくれる方がいい。
また、住む家を決めるときも役に立った。初めて二人で住む部屋を探した時は、私は良いけど、彼はダメ、理由はわかんないけどなんかダメ、という部屋がいくつかあった。今の家も、外のあちこちに塩が盛られて、ブロックで神棚みたいなものが作られていたけど、彼は「これは関係ない、片づけていい」と断言したので、さっさと片づけた。前の部屋も、今の家も、とても快適で居心地よく安心して住んでいる。

まだ夫とは知り合い程度のころに、とても印象的な出来事があった。
その日私は朝から風邪気味だったのだが、夜になり知り合いが訪ねてきた。話しているうちに、自分でもわかるほどメキメキと具合が悪くなり寒気がしてきて、家に帰って薬を飲んで寝よう、でも家まで歩いて帰れるだろうか、というほどになっていた。
そこに偶然彼が訪ねてきた。
彼は私の顔を見て、真顔になり、その知り合いに挨拶しながら「彼女、具合悪そうだから、もう帰ろう」と言って、その知り合いを外まで送った。そしてすぐに戻ってきて「塩、塩」と言った。
もう立つのもやっとだった私は内心「この人も早く帰ってくれないかな」と思いながらも、訳も分からず塩を渡した。
そうしたら、彼は私をドアの外に引っ張っていき、塩をひとつかみして私の頭にぶっかけた。
その時の私の衝撃をわかってもらえるだろうか…こんな具合の悪い女の子(そのころはまだ30代だった。とはいえ女の子とはいえないかもしれないが)に塩を投げつけるなんて、なんてヤツだ!
背中にもひとつかみ、また頭からひとつかみ…
そうしたら今度は、背中をバンバン叩き始めた。
一体何なんだ、私は具合が悪いのに、塩を浴びせられた上に背中も痛い…
「…大丈夫?具合はどう?」
行為とは裏腹に優しい声で彼が聞いた。私は混乱していたが、はっきりとわかった。寒気がすうっと引いて、手足があたたまり、体はすっきりとしていた。
「たぶんあの人が連れてきていたんだろうね。あの人について行っちゃったから、もう大丈夫だよ」
主語のない言葉だが、なんとなく事情を理解できた私は、塩をかけ背中をたたいた彼にお礼を言って、家に帰ってから念のため風邪薬を飲んで寝た。
そうして、知り合い程度だった彼は、「なんか頼りになるかもしれない彼」に昇格した。

一応伝えておくと、その、何かを連れて行った知り合いはその後も事故や病気はない。ただ、常に呑んだくれている人だが。

彼にとっては、「人が頭の中で作り出す様々な怖いものたち」ではなくて、その感覚はリアルなものだ。
おかげで、彼自身を助けてくれているし、私たち家族も助かっている。
どうか、これからも、海で怖い声を聞かせて、彼に危険を察知させてやってください。無能力の私に代わって、彼の命を守ってやってください。
あと、私にはこの能力を与えないでください。怖がりなもんで。






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