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父と知恵の輪

今年の初めから2か月とちょっと、父は入院していた。私が物心ついてからは初めての入院だった。風邪で寝込んだとこも記憶にない。
本当に丈夫な人だったのである。

最初は「ちょっとした手術」「1月中に退院する」と聞いていた。
しかしうちの親は心配かけまいと隠して嘘をつくことがあるので、そこは念入りに何度も聞いたのだが、父も母も口を揃え大丈夫大丈夫と笑っていた、が、後にそれはやはり嘘だったと判明する。

1月が終わり、2月も下旬になり
実家に帰るたび、電話するたび「まだ退院出来ないみたいで…」となる。流石にそこは嘘は突き通せないようだ。
ちなみにその時は「数値が安定しないらしい〜」とのらりくらりの言い訳を聞いていたが、とうとうしまいに私が泣きながら怒ったので、結構シャレにならんタイプの手術であり、しかもその術後の経過が芳しくない、という事がわかった。
あーあそんな事だと思った。また私は騙されていた。隠されていた事でショック倍増だ。
ちなみに弟はこういう時「黙っとけって言われてたけどお姉には話しとくわな」みたいな根回しが出来ない。使えねぇ。これはちょっとこの先困るな、本当どうしたもんかな。

話を戻すが、もうすぐ3月。なんとその時点で入院した1月中旬からずっとご飯が食べられていない、と聞いた。
高カロリーの点滴でその長い長い日々を過ごしていたのだそうだ。水も飲めないと。
せめて娯楽だけでも享受できているのかと聞くと体を起こして何かを見るのもしんどいと言う。父は丁寧に新聞を隅から隅まで読み込む人だったが、それも今は「ようせん」という。すぐ疲れるのだという。さらに口から長く長く入る管が痛むのだという。泣き言を言う事のない父が流石に辛いと漏らしたそうだ。
そんな状態で1ヶ月半もすごしていたのだと思うと絶句した。
コロナで面会もできない。
そんな状態でさらに入院が5月までのびるかもしれないと言われたそうだ。
さすがの母も憔悴しはじめていた。

ああせめて野球のシーズンが1日もはやく開幕して欲しい。今年は少しくらい父の好きな巨人が勝ってくれても良い。
WBCが今すぐ始まってくれるとかでも良い。

しかし野球の日程は父のためには早まらないので、なんとかならないかと考えた。
このままでは鬱になったりボケてしまうのではないかとすごくすごく心配だった。
まず私は子供たちが可愛く撮れた写真をやおもろい写真を沢山プリントし、しょうもない日々の、でも楽しく過ごしてる事が分かるような長い長い手紙をすごくでかい文字で書いた。
そして理数系で大工だった父が、手先と頭がまた使えるようにとちょっと難しい知恵の輪のセットを送った。
父の性格を見越し「〇〇〇円もした高いやつなので絶対やってくださいね」とわざわざ恩着せがましく書いた。

そして荷物が届き、お礼を言われた3日後くらい
急に状況は好転した。

水が久々に飲めた。その美味しさに感動した。と電話で聞いた。
そのまま順調に退院となりWBCの準決勝からは家で観たそうだ。
大谷は凄い。村上も凄い。嬉しそうなイキイキとした父の声が久々に聞けた。

知恵の輪は届いたその日に1日で3つとも外したで。と自慢げに笑った。
3,500円もしたんやがなー(笑)

でも凄く安心した。
やっぱり凄いなお父さんは。
って思わせてくれて嬉しい。

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