新型コロナウイルスと休業手当


新型コロナウイルスの急速な感染拡大に伴い、4月7日に緊急事態宣言が出されました。期間は5月6日までとされていますが、直近の感染状況を踏まえて1ヶ月程度、延長されることになりそうです。


緊急事態宣言を受けて、自治体から休業要請のあった業種においてはもちろん、それ以外の業種においても、人との接触を7~8割減らすようにとの呼びかけがされている中、通常どおりの営業を継続することが困難となっており、従業員の雇用にも不安が生じています。


一般的に、営業の一時休止に伴って従業員を休業させる場合は労働基準法(労基法)に定める休業手当の支払を行う必要がありますが、そもそも、今回のようなケースにおいて、使用者は休業手当の支払を義務付けられるのでしょうか。


ここでは、自治体からの休業要請の対象外の業種において、感染拡大防止の観点から使用者が自発的に休業した場合に、従業員の給与がどのように扱われるのか、整理してみます。


労基法は、民法の特則として、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合、平均賃金の6割以上の休業手当を支給しなければならないと定めています。

この「使用者の責に帰すべき事由」はかなり広い概念ですが、不可抗力によるものは含まれないと考えられています。


そして、不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であり、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることとされています。


今回の新型コロナウイルスの蔓延とそれに伴う緊急事態宣言等が、「事業の外部より発生した事故」であることは明らかですので、問題は、それに伴う休業が、「通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない」ものといえるか否かです。


厚生労働省の『新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)』(4月30日時点版)では、使用者が「最大の注意」を尽くしたといえるか否かについて、例えば、

・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか
・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか

といった事情から判断されるとしています(なお、このQ&Aの内容は随時更新されていますのでご注意ください。)。


この考え方によれば、①自宅勤務など他の方法によって就業させることが困難であり、②他の業務への転換もできないような場合は、使用者は労基法上の休業手当の支払義務を負わないと解されます。


したがって、警備員、飲食店の従業員、建設現場作業員など、自宅勤務や他の業務への転換が困難な職種については、休業手当の支払義務も負わないことになると思われます。


他方、自宅勤務や他の業務への転換が可能な職種については、まずこれらの手段を検討することが必要であり、結果的に休業させることとなった場合でも、最低6割の休業手当の支払を行うことが求められます。


もっとも、このような判別が困難な場合や、この基準が当てはまらないケースも少なくないと思われますし、当然ながらこの問題について判断した裁判例はまだありませんので、あくまで一つの参考とした上で、具体的な対応にあたっては、専門家に相談するなどして十分な検討を行うことが必要です。


なお、今回の事態を受けて、国は、雇用調整助成金の支給要件を緩和するほか、助成率を引き上げる等の特例措置を講じています。

事務手続が煩雑であるとの声もありますが、使用者としては、まずはこのような助成金を活用することによって可能な限り従業員の給与を保障することを考えるべきです。


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