小塚泰彦

博報堂を経て渡英。Royal College of Art を中退して英国人と株式会社…

小塚泰彦

博報堂を経て渡英。Royal College of Art を中退して英国人と株式会社 morph transcreationを創業。「トランスクリエーションの概念を拡張し、未来の文化資本を創造する」がミッション。能・茶道・和歌を日々稽古。https://morphtc.com

最近の記事

トランスクリエーション思考:ロレックスのレモン搾り機

ロンドンにある英国王立芸術大学院のイノベーション・デザイン・エンジニアリング学科で、私はMPhil(日本ではあまり馴染みのない「研究修士」と呼ばれる課程)に所属していた。通常の修士課程の授業にもいくつか参加させてもらったことがある。そのうちの一つに「既存のブランドの架空の製品を作る」というものがあった。世界的によく知られた企業が「出さないであろう」製品を、「もし出したとしたら」と想像して、3人1組のチームに分かれて実際に試作品を組み上げるところまでやってしまうのだ。与えられた

    • トランスクリエーション思考としてのシャーロック・ホームズ

      創造的に推論することは、まだまだAIの苦手分野であるとされている。創造的推論は、書かれていない、明らかにされていない状態をもとにして、隠れた関係性とそこに潜む意味を読み解く力だ。 それを誰よりも得意とした人物といえば、シャーロック・ホームズだろう。コナン・ドイルが生み出したシャーロック・ホームズシリーズの最初の作品『緋色の研究』で有名な一節がある。 「わずか一滴の水から、理論家はたとえ実際に見聞きしたことがなくとも、大西洋やナイアガラの滝について推理できる」(コナン・ドイ

      • トランスクリエーション思考を発揮した英国王立芸術大学院の入試

        トランスクリエーションの理解を深めるために、私が経験したある「入試問題」を共有したい。 2012年、私は広告会社に勤務しながら、ロンドンにある芸術系の大学院を受験した。英国王立芸術大学院と呼ばれるところで、出願したのは少し毛色の変わった学科だった。イノベーション・デザイン・エンジニアリング。その名の通り「イノベーション」を探求する場である。イノベーションを起こすためにはあらゆる意味での多様性が不可欠という方針で、芸術にまったく限らない、工学、物理学、生物学、農学、法学、経営

        • トランスクリエーションが解き放つ思考の重力

          人の思考にも、重力が働いている。トランスクリエーションはその「思考の重力」から人を解き放つ力を持っている。 「人の思考にも重力が働いている」というのは、もちろん、比喩にすぎない。しかし、人の考えというものは、目に見えない何らかの力によって抑え込まれているように私は感じることがあるのだ。そして地球上にあまねく作用する物理的な重力についてそうであるように、人は自分に作用している「思考の重力」のことを普段は意識しない。そうして「思考の重力」に支配されたまま日々が過ぎていく。 ト

        トランスクリエーション思考:ロレックスのレモン搾り機

          トランスクリエーションはどこへ行くのか

          私の大切な友人が、がんになった。まだ若い女性だ。ある年の春先、三月半ばの話。彼女はこう言った。 「現実を受け止められない。そして、怖くて治療に行けない」 家族はもちろん親戚や友人から一刻も早く治療に行くようにと何度も言われているという。担当の医師からはどうして病院へ来ないのかと怒られているのだとも。しかし、どうしても病院に足が向かない。 私は涙で言葉が出なかった。こういうとき、どんな言葉をかけるべきだろうか。 もちろん私もすぐにでも治療を受けてほしかった。ただ、この状

          トランスクリエーションはどこへ行くのか

          トランスクリエーションとの出会い

          「トランスクリエーションって言うんだよ」2017年初冬、サッチャー元首相の息子が上階に住むというロンドンでもひときわ目立つ外壁が全面イエローのフラットの一室でキーランと私は話し込んでいた。 キーランは後に私と共同経営者になる友人で、二人のキャリアが似ていることからフリーランスのコンビとしていくつか仕事を請け負っていた。二人で企業の製品やサービスのコンセプトやキャッチコピーを考えるのが常で、日本企業の海外展開案件がほとんどだった。 日本のブランドが海外でマーケティングをする

          トランスクリエーションとの出会い