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ヒーローは必ず帰ってくる―帰ってきたあぶない刑事


「アンコールの声が聞こえたら…」

2016年1月30日、「さらば あぶない刑事」の初日舞台挨拶。
大下勇次役・柴田恭兵の言葉である。
前作「さらば あぶない刑事」は、監督・村川透、製作総指揮・黒澤満、脚本・柏原寛司、撮影・仙元誠三、キャストにこの映画のためだけに俳優復帰した山西道広含め、レギュラーメンバー総出演の、まさに「最終作」に相応しい作品であった。

私もそれを強く感じたので、小雨降る横浜ブルク13の初回上映後舞台挨拶と夕方からの丸の内TOEIの舞台挨拶に参加した。

当時の記事(映画ナタリー)より

それから8年―。「終わる終わる詐欺」で名高い「あぶない刑事」はやっぱりスクリーンに帰ってきた。
鉄腕アトムもウルトラマンもドラえもんも、ヒーローは必ず帰ってくるのである。

最新作はあぶ刑事版「ハーフ・ア・チャンス」

前作で警察官を退職し、探偵となって横浜に帰ってきたタカ&ユージ。
そこに20年前に消息を絶った母親を探す依頼人・永峰彩夏がやってくる。
彼女の母・夏子はタカ・ユージともに関係を持った過去があり、彩夏はどちらかの娘ではないかという疑いがかかる。

この筋書きは、フランスの名優、アラン・ドロンジャン=ポール・ベルモンドが28年振りに共演して話題となった「ハーフ・ア・チャンス」(1998)と同じである。
娘を巡って牽制・協力し合い、物語が3人を血を超えた「家族」とし、どちらの娘か結論を明かさない展開も同じだ。

前作は映画版ならではのド派手でお祭りのような雰囲気を抑え、初期のようなハードさを取り戻して「最終作」に相応しかったが、今作は作品に今までにない空気が流れていて、それはそれで心に残る作品となっている。

老境に訪れる穏やかさ

今作の何が心に残るのか。それはこれまで明かされなかったタカとユージの私生活を垣間見るからではないか。

「あぶない刑事」はバブル全盛の1986年に誕生し、仕事をスタイリッシュに格好良くこなす一方で隙あらば女性を口説くなど、その後流行語となった「5時から男」(1988)や「24時間戦えますか」(1989)を地で行くような作風であった。
しかし、主人公タカとユージの私生活は明かされることなく、寝起きであっても張り込みで徹夜明けだったりと、仕事から完全に離れる描写は無い。

それが今作では二人で寝食を共にし、ユージが洗濯物を干したり、タカがスーツを脱いでリラックスしたりするのである。
40年近く横浜ハマの平和を守り続け、何度となく死線を乗り越えてきた二人が、老境に差し掛かり、「娘」も交え穏やかな日々が垣間見えるのが何とも温かい気持ちにさせてくれるのである。

前作の舞台挨拶で、柴田恭兵は自分たちの役を「アニメのキャラクターのよう」と表現し、「ルパン三世」「名探偵コナン」にも関わった歴代の制作陣を見てもそれはまさに言い得て妙であったが、基本的に年を取らないアニメキャラクターとは違い、役を積み重ね、年を重ねた役者にしか出せない味わいと郷愁が今作に新たな魅力を与えていると思う。
一方でそれは、キャラクターとして不可逆的であり、どんなに望んでも今後見られなくなるであろう哀愁でもある。

因縁の対決や如何に

昭和末期に大ヒットした「あぶない刑事」だが、時代の寵児が次の時代に敗れるのは世の常だ。
1998年、「あぶない刑事」はスペシャルTVドラマと連続した「あぶない刑事フォーエヴァー THE MOVIE」を公開。しかし興行収入が振るわず(興行収入8億8000万円)、シリーズの休止を余儀なくされた。
一方同年、劇場で大ヒットした刑事ドラマが「踊る大捜査線 THE MOVIE」(興行収入101億円)である。
バブリーで大味な作風のあぶ刑事はウケず、リアルな警察組織を扱った踊る大捜査線が圧勝したことは、バブル崩壊後のシビアな現実を見せつけられ、時代の変化を強く意識させた。

この2シリーズが今年、奇しくも再び同じ年に劇場用作品として公開されるのである。
今のところあぶ刑事は昭和レトロブームも手伝ってか、動員数100万人を超えて好調であるが、対する「踊る」シリーズは、柳葉敏郎演じる室井慎次をメインに据え、主人公・青島刑事(演:織田裕二)を欠いた作品となる。
映画「室井慎次」は「室井慎次 敗れざる者」と「室井慎次 生き続ける者」の2部作となるようだが、今の時代の心を掴むのはどちらのシリーズだろうか。

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