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「ルパン三世」アニメ化50周年に寄せて

始まりはさりげなく

レース場のパドック。不審な動きをするメカニックに、画面右からにゅっと腕が伸び肩を叩く。

「ねぇ、そんな缶持ってどうするの?」

ルパン三世の初登場シーンである。レース用のつなぎを着込み、抑揚を押さえた声で怪しげなメカニックを諫めるルパン。お決まりの緑・赤・ピンク・ブルーといったジャケットにネクタイ姿でもなく、後の「るぱ~んさ~んせ~」でお馴染みの独特な抑揚の台詞回しもない。実に静かな登場だ。

ルパン三世は初登場から大泥棒であり、既に完成された人物だった。アニメが「テレビまんが」と呼ばれ子供のものと思われていた時代、作品の第一話は物語の発端やヒーローの誕生が語られることが多い中で、この作風・登場が如何に異質であったかは、想像に難くない。

しかし同時に、主人公の過去も未来も明かさないスタートを切ったことで、「ルパン三世」は時代を超える普遍性を持ったとも言える。

「ルパン三世」の幸運

「ルパン三世」が幸運だったのは、初期に路線変更したことでバラエティ溢れる要素を取り込み、夕方の再放送、アニメブーム、高畑勲・宮崎駿の大成など、時代の趨勢に上手く乗ったことだ。これによって忘れ去られることなく、時代に合わせてアップデートされる作品となることが出来た。

また、シリーズの長期化による声優交代の例が少ない頃に、アニメ「ルパン三世」の人気を支えた声優・山田康雄が急逝するというピンチを迎えたが、その演技を真摯に引き継ぐ栗田貫一が、様々な誹謗中傷を乗り越え声優交代を「成功」させたことも幸運であった。

作風は、「座頭市」や「寅さん」などアンチヒーローとして始まった作品が回を重ねる毎に大衆化、陽気な作風に転じていったように、「ルパン三世」も山田康雄のキャラクターと「カリオストロの城」に影響され、長らく若年層向けの「陽」の部分が際立つ作品が続いたが、近年は「LUPIN THE ⅢRD」シリーズなどダークなルパンも制作されるようになり、再び大人の視聴に耐え得る作品も誕生している。

歌舞伎のように

今年50年に及ぶ次元大介役を勇退した小林清志は、ルパン三世役が栗田貫一に代わった頃の座談会で「歌舞伎のように何代も役が引き継がれていけると良い」という趣旨の発言をしている。

既に声優はその様相を呈しているが、作品自体も時代に合わせて発展したり原点回帰したりを繰り返しながら引き継がれて、その時一番面白いと思えるものが生み出されて行って欲しいものである。

1971年10月24日日曜日に始まった「ルパン三世」は、奇しくも2021年10月24日日曜日に50周年を迎える。

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