アートにおける画像生成AIの活用
toB向けAI活用を生業としていますが、toC向けとしてアーティスト中西 伶さんの作品制作の支援を紹介します。
上海の宝龙艺术中心(Powerlong Art Center)にて、2023年9月9日から9月23日まで、企画展「Chimaera 奇美拉打开的门会通向哪里?(開かれたキメラの扉はどこにつながるのか?)」が開催されました。
発表した作品
中西 伶さんは、デジタルとアナログを掛け合わせる作品が特徴で、代表作として花をモチーフにした「flower of life」シリーズがあります。
今回の発表は、AIを活用せずに制作した作品(オリジナル)とAIを活用した作品(コラージュ)を一対にしています。AIを活用した作品は、花のテクスチャー部分をAIが生成した画像をコラージュしています。
AIの活用(コラージュに活用した画像ができるまで)
中西 伶さんとは、2021年夏にFLATLABO で出会い、GAN(敵対的生成ネットワーク)の話で盛り上がってからの関係です。当初から「画像生成をアートに使いたい」という想いで意気投合し、2年ほど試行錯誤して実現しました。
画像生成のモデル、データ、生成後の画像の解像度など、アートへの活用にはTo B向けとは異なる難しさがあります。また、著作権侵害やアーティストのオリジナリティを損なうことなく、AIを活用することも重要です。
今回は、作品(花)の形の生成ではなく、ストロークや色をAIで再現することにしました。中西 伶さんの過去作品100点ほどをデータ加工、AIモデルをトレーニングし、専用モデルを構築しました。そして、中西 伶さんが日頃から撮影していた自然や風景の画像を推論することで、過去作品の特徴(ストロークや色)を持った画像を生成することができました。
この画像群からコラージュしたのが、今回発表した作品になります。
AIモデルはDiffusion Model(拡散モデル)ではなく、GANを活用しています。Diffusion Modelは多様性のある画像を生成するには最適である一方、トレーニングデータ(アーティストのオリジナリティ)の特徴が表現できませんでした。今回のようにコラージュに使う画像を生成する場合には、GANの方がよりトレーニングデータの特徴が出せると考えます。
今後、作品の形を生成する場合は、Diffusion Modelの活用も考えられます。
最後に
アートに限らず、AIはどのように活用するかが重要になります。AIに任せることで価値が出ることもあれば、任せすぎて価値を毀損することもあると思います。
私は、AIがNon-linear(非直線的に)に新しい考え方が生み出されると信じています。その中、「まず試してみる」が大事だと考えていますし、中西 伶さんのような最先端のテクノロジーを取り込む活動を支援していきます。
Appendix
Artist statement
AI技術は、私たちが生きている時間の中で観測できたテクノロジーの大きな進歩の一つであり、この目まぐるしい進化はこの先どんどんスピードが速くなると予想できます。
今回私がAI技術を作品に取り入れることによって感じたのは、テクノロジーが私のテクニックや作品への意図を超えた時、それが私たちにとって何より大切なインスピレーションの一つになるということです。同時にその偶発性は、私が普段絵の具や粘土を触っている時に感じる感覚と同じであるという事に気がつきました。
そうして完成した作品たちを見て疑問に感じたのは、AI技術を使い、私の手から作品が離れたとき、どれだけそれらを私の作品と言えるのだろうかということです。このようにテクノロジーを取り入れたときに必要な創作の手がかりは、いかに間違いなく私の作品、特徴をインプットさせるか、そしてAIから出力されたものを判断する時の私の意志であると考えています。
例えば今回発表した作品では、AI生成された作品を私の作品として発表するために、私の作家性を維持する為にチューニングした専用のAIを使う、ということを線引きとしました。アーティストとして、何を受け入れて何をジャッジしていくのか。どういった未来を目指すのかという部分に思いを馳せる、意志の力が試された結果が今回の作品シリーズです。この発表がテクノロジー、そしてアートの歴史の中で大きな節目と成ることを望んでいます。
−中西 伶 Rei Nakanishi
Production cooperation
FLATLABO inc. / Yasu Shiina / Yuma Kishi
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