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飛行機雲にみるイノベーション

晴れた日の朝、家を出るとなんとなく空を見上げる。そこにかかる飛行機雲を見つけると、一直線に伸びた白い足跡を辿って、その先にいる銀色に輝く機体を探す。

飛行機が初めて空を飛んだのは1903年12月17日。「ライトフライヤー号」はライト兄弟の手によって、世界で初めて有人飛行した機体として歴史に名を刻んだ。それ以降、飛行機は世界中を駆け巡り、その度に空には飛行機雲がかかった。

ということは、1903年よりも前、まだ飛行機が存在しなかった時代には、「飛行機雲がかかった空」という景色は存在しなかったことになる。それまで誰も、飛行機雲など見たことがなかった。

昼間の空を見上げるとそこにあるのは、雲と太陽と、欠けた月ぐらいだろうか。

飛行機が空を飛ぶようになってから、そんな空の景色の定番に、飛行機雲が加わった。

世界の歴史を遡れば、これまでも人類の生活を大きく変えるような様々な発明やイノベーションが生まれてきたが、時としてそれらは人類の生活だけでなく、景色までも変えてしまう。

その中でも、飛行機雲は少し特別だ。

自動車が走る道路や高層ビル、歩きスマホなど、それまでには無かった景色が、革新的な発明や文明の発展によって今では当たり前に存在するようになったが、人の手の届かない空の景色を変えたのは飛行機雲だけだ。

欠けた月と星と太陽だけに許された空の景色の殿堂に1903年から今日に至るまで、ゲスト出演的ではあるが常連として君臨し続けている飛行機雲に拍手を送りたい。

あなたは、空の景色を変えたんですよ、と。

今は飛行機に乗って遠くへ行くことも簡単では無くなった。

やがては、飛行機雲よりも人類よりも遥か昔から存在する小さなウィルスによって、飛行機雲が空から消える日が来るのだろうか。しかしそのウィルスを運んだのも、飛行機に乗った人類だという事実も忘れてはならない。

旅は人類の本能だ。

未来には宇宙に浮かぶコロニーが、飛行機雲の後継者として空の景色の一角を担うのだろうか。

ところで、イノベーションという言葉について、よく耳にはするがその定義はちょっと難しい。「人々の生活や文明を向上させるような革新的な行為」をイノベーションと呼んでもよければ、飛行機の発明もイノベーションだろう。

そして、「人々の生活や文明を向上させるような革新的な行為」は、何も偉い人や一部のスペシャリスト達だけの特権ではないというのが僕の意見だ。

僕は今日、飛行機雲についてなんとなくnoteを書きながら人類やこれからの世界のことなんかについて思考を巡らせているわけだが、そのきっかけとなった一筋の飛行機雲は、なんだか僕にとってはそれ自体がイノベーションに思えてきて、そう呼びたくなった。

飛行機というイノベーションが飛び去った後に生まれ、時間と共に形を変えやがて消えていく、飛行機雲という景色のイノベーション。

さすがにライト兄弟も、空の景色を変えようと思ったり、それによって何か人類に示唆を与えたくて飛行機を飛ばしたわけではないだろう。でもライトフライヤー号が空を初めて飛んでから約120年後に、飛行機雲を見上げた僕は、そこに定義すら曖昧なまま勝手に「イノベーション」を感じた。なんてことはない、それだけの話なんだけども。

さて、こうしている間にも世界は刻々と変化している。関係のないように思えて実は僕も世界を変える当事者であるという意識を持とうと思う。









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