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「1.苦痛」

「あぁ、まただ。これで何回目だ?なんでこう何回も襲ってくるんだろう。もういい加減やめてほしいなぁ…」

先日、3年ほど付き合ってきた彼女にフラれた。お互いいい歳だし、もうそろそろ…と思っていた矢先に、彼女から別れを告げられた。
どうやら、なかなか踏ん切りがつかない僕に愛想が尽きたらしい。

先ほどから公園のベンチで幾度となく、胸をギリギリと締め付けられるような感覚に襲われている。
過去付き合ってきた人たちとの別れはそれなりに経験はしてきているが、今回は余程ダメージが大きかったのか、とてつもなく苦しくて、頭がどうにかなりそうだった。

「付き合ってきた時間に比例するのかな…」

大きなため息とともに、少しでも胸の痛みを紛らわせようと、近くのスターバックスで買った大好きなキャラメルフラペチーノを吸い込む。

「そういえば、こんなもの飲んでたら太るよって、いつも言ってくれてたなぁ…」

忘れようとしても、ふとした拍子に目に映るモノと彼女との思い出を勝手に紐づけてしまい、自分で自分の首を絞める。
なんで神様はこんな機能を人間に備え付けたのだろうと、苦悩から生まれるやり場のない怒りを、普段はその存在を全く意識しない神へ向ける。こんな時だけ都合よく恨まれ、神様もいい迷惑だろう。
いつもはとてつもなく甘いと感じるキャラメルフラペチーノが、今日は少し苦く感じる。

土曜日で休日だというのに、こうして一人嘆く以外やることは特にない。
平日は、電気機器を扱う中小企業で営業をしている。新卒でなんとなく入った地元の会社で、特にバリバリ出世してやろうなんて思いは微塵のかけらもなく、日々のんべんだらりと流れに身を任せて暮らしている。
最近、会社の業績が思わしくないようで、上司からのプレッシャーが日に日に強くなっているように感じる。あえて気付かないふりをしているけど。

「あぁ、どうしたもんかなぁ…」

本日何度目かのため息をつきながら、天を仰ぐ。
空は真っ青で雲一つない。こんなにいい天気なのに、僕にはどこか薄いグレーの靄がかかっているように見えてしまう。
彼女といれば、今頃どこかお出かけでもするのに、一人になるとこうもやることがなくなるのか。無趣味なのも困りものだなと改めて感じる。
何か打ち込めるものがあれば、全てを忘れて没頭できるのに。

「まぁ、こうしててもしょうがない。その辺ぶらぶら散歩でもするか。」

底の方に残っている、既に氷が溶けて水っぽくなり甘さも控えめになったキャラメルフラペチーノらしきものをズズッと勢いよく吸い込み、立ち上がって辺りを見渡す。
ゴミ箱は見当たらない。

「最近はどこにもゴミ箱置いてないよなぁ…」

ゴミ箱にもフラれ、空の容器を持ったまま、あてもなく歩き出した。

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