「2.出口」
あてもなく歩き出したはいいものの、一体どこへ行こうか。時計の針は午前11時を少し回ったところを指している。木々を吹き抜けてやってきた心地よい薫風が顔を撫でていく。公園は幸せそうなカップルや、仲良くボール遊びをしている家族で賑わっている。
「そりゃそうだよな、土曜日だもんな」
僕が土曜日という休日を享受しているということは、すなわち世間もそれを享受しているということだ。土曜日という24時間は、皆に平等に与えられている。その限られた時間をいかに過ごすのか、生かすも殺すも自分次第。賑わう公園を横目に見て、自然と歩調が速くなる。
歩きながら、なぜ彼女と別れることになったのか自然と思考を巡らせている自分に気付く。
去年のクリスマス。待ち合わせ場所にやってきた彼女は、どことなく落ち着かない様子で、朝からずっとそわそわしていた。彼女の好きな水族館に行ったのだが、いつもなら見るだけでハイテンションになるタカアシガニを見ても、その日はなんとなくうわの空だった。
いつもとなにか違う。そう感じてはいた。今になって思えば、恐らく、プロポーズを待っていたのであろう。けれど、僕はしなかった。結婚する気はあったんだけど、なぜか踏ん切りがつかなくて。
結婚は勢いだ、なんて言う人もいるけど、この「なぜか」という部分を納得できないと、僕は前に進めない。納得しないまま進んだとしても、きっと何かしらのモヤモヤしたものが、心の中にずっと残るような気がして。
水族館でのデートを終え、僕のうちまで戻り、クリスマスらしいことを一通りやった後の別れ際、彼女がひどく物悲しい顔をしていたのを覚えている。そこからかな、彼女が少しよそよそしくなっていったのは。
「あれがターニングポイントだったな」
下を向き、一人ぶつぶつ言いながら早足に歩く。傍から見ると完全に変な奴だ。なるべくお近づきになりたくないだろう。でも、今の僕は他人とそれくらいの距離感があった方がいい。そっとしておいてほしい。
歩きながら考えて独り言を呟いていると、頭が回る気がするし、気持ちもだんだん落ち着いてくる。僕の一種のクセだけど、こういう時には役に立ってくれる。
「あ、ゴミ箱だ。よかった」
コンビニの前に雑然と置かれたゴミ箱に、ここまで僕のあてもない散歩に付き合ってくれたスタバの空の容器を、思いっきり投げ入れた。
なんだか少し目の前の靄が晴れたような気がした。
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