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ウェルカム

某アワード用に書いたものを公開します。

「おとぎ話や昔話、民話、小説などをもとに創作したショートストーリー、アレンジやスピンオフ、新釈作品」

とお題にありましたので、オリジナルのストーリーではありませんし、カンの良い方は途中で、

「ああ、あの話の焼き直しか・・」

と結末が見えてしまうキライがあるかもしれませんが、

どうぞお付き合いくださいませ。


「ウェルカム」

今よりもちょっとだけ未来のお話。

若くして成功し、財をなした2人のイケメン青年実業家。

自動運転のチャーター機で宇宙旅行にやっては来たものの、眺めはもう見飽きたし、無重力なんて気持ち悪いだけで、ここで悟りを開いた宇宙飛行士なんてヤツらの気がしれないなんて、二人とも強がりを言いあっている。

2人だけの貸切と言っていいチャーター機とはいえ、ペットの持ち込みなど原則出来ないはずなのだけれど、金の力にあかせて、運営業者に反対をされながらもそれぞれに連れてくることを可能にしていた。

案の定、無重力の訓練を受けれていない動物の彼らは、その環境に耐えられず2匹ともかなり弱ってきていてるもかかわらず、

「僕のウェイガー、1億円もしたんだけどな」

「僕のマスティフなんて、3億円さ」

とペットの状態など気にもとめず、金銭的な損失を気にしている2人だった。


そしていま、地球周回軌道上にいる彼らには宇宙嵐がせまっていて、それのせいかは不明だけれど、地上との通信が途だえてしまっている。

もしかしてスペースデブリか何かが機体に衝突し、どこかの機器がヤラレたせいかもしれない。

オーロラがどんどん輝きを増していく宇宙空間の異様な雰囲気にすこし気持ちがあせり、再度しつこく通信をこころみるのだけれど、地上との交信は回復せず帰還はしばらくできそうにない。

食料もちろんは十分に積んでいるのだけれど、こんな宇宙食は喰い飽きたといわんばかりの彼らだった。

そんな時、無人で自動制御の運転席から警告音がして、

「宇宙ステーションが接近し、ドッキング可能な領域に入った」

と音声で告げてきた。

それはチャーター機のデータベースでは認識されないステーションだったけれども、いくつかのセクションから成っていると思われるこの大きめのステーションは、それぞれに整備、通信、補給などのサービスが受けれそうな雰囲気が漂っていた。


そんな訳で、

チャーター機をステーションに寄せていく指示を出し、近づいていくと、

< cuisine >

と読める看板があるセクションが見えてきた。

漢字も併記されていて、食ナントカと書いてあるみたいだけれど看板が煤けていて読めずに、

< cuisine 食ナントカ >

とまでしかここからは見えない。

「 cuisine って 料理の意味だろ? よくホテルとかで見るじゃないか」

きっと宇宙食よりまともなものを食わせてくれるだろうとの思いに、2人は、通信や整備よりも先に、その看板の近くのハッチに向け、自動でドッキングの指示を出したのだ。



『ウエルカム』 その2

貸切のチャーター機がドッキングを完了したその先に、

< ウェルカム >

と書いてある、データベースには認識されない謎のステーションのハッチ。

全体的にいくぶん宇宙焼けしているけれど、肝心の文字は誰かが拭いたのか、カンバンを重ね塗りしたのか、明瞭に読み取れる状態。

与圧が完了したグリーンランプを確かめつつハッチをすこし開けると、「シュッ」と少し音がした。 わずかな気圧差のせいだろう。

それから重たい蓋をゆっくりと大きく開けて、人が通れるようにし、その先の微重力セクションのチューブを浮かびながらくぐりぬけて行く。

気温はこちらのほうが高いようで、その空気にはこころなしか肉を焼いたようないい匂いがしてきて食欲をそそった。

おいしい食べ物にありつけるかもしれないとの期待が2人によぎる。


その先に部屋があり、入り口に

こうある。

・ルール

< 当ステーションでのルールをご了承の上、お進みください >

というディスプレイの表示がされていた。

「ルールかぁ、まぁしょうがないな、ましなものが食えるならば」

という風に2人はとらえ、チューブの先の扉を開け、部屋に入った。

部屋の中には、

・ルール

< 宇宙服はここで脱いでください >

との案内があり、その部屋には来た扉以外に、ふたつの扉があって、

「シャワールーム」「調理室」と書かれた部屋へとそれぞれつながっているようだ。

「ルールね、わかったからさ、ああ早くなんか喰いてえなぁ」

宇宙服をもどかしく、やや手間取りながら脱いでいた2人に、

・ルール

<ソニックシャワーを浴びて、シャンプー、できれば歯も磨いてから調理室へお進みください>

とディスプレイ表示がなされた。

 

「シャワーかぁ、めんどくせえな・・、まぁルールならしょうがないか」

「食事の前にリフレッシュといこうぜ」

ともう一人が言う。

なにせ地上を発ってから、シャワーなんてものはしばらく浴びれなくて、こんなに汗を肌に残したのは何年、十数年無かったかもしれないよ、なんて話になる。

そうしてシャワールームを終えて、部屋に戻ると2人分の着替えが用意されていた。

トランクス一枚だけのシンプルなつくりだけど、この暖かなステーションの環境に合わせたものだろうか、南国のリゾート気分か。

ただ、この繊維というか、素材はなんなんだろう、紙のようにゴワゴワしていて、肌触りがあまりよくない。

「なんだこの生地はひどいな、客をなめてるな」

「このステーション業者の親会社にあとでクレームをつけといてやろう」

「こんな会社つぶしちまえよ、そのあとで買収だ」

「ルールとか、まったくけしからんね」


何事もお金で解決してきた彼らの寒い会話はこんな感じ。

でも、口で強がる彼らの心は、

「・・リサイクル素材かな?」

「何か食品を包む素材でこんな質のようなものがあったような気がする」

「食うだけ食ったら、こんなところは早く退散だ」

とおぼろげな声を発していた。

そうこうして、トランクスだけに着替えた2人は「調理室」へと進んだ。



『ウエルカム』 3 

なぞの宇宙ステーションには、

< cuisine 食ナントカ  >

とおぼろげに読めるセクションがあり、そこで何か食わせろとの思惑で、

< ウェルカム >

と書いてあるハッチをそそくさと開けて、その中の調理室へと、欲望むきだしの傍若無人な二人が進んでいく。


調理室へと通じる、

チューブというか、地上の建物で言えば廊下の部分のディスプレイに、

・ルール

< アクセサリーを全て外してください >

との表示がされ、少し首をかしげたくなったけれど・・

まさかこんな場末のステーションで盗むヤカラもいないだろうと、最近換えたばかりのPPのスマートウォッチ、ピンクダイヤのリングなども、相棒と目線をあわせながらも外して、それらを指定のトレイに置いて、ふたりは調理室の扉をあけた。


調理室の中は、日焼けサロンを思い起こさせるような、無機質なベッドがふたつ置いてあるだけの部屋。

<当ステーションでのルールをお守りいただきありがとうございました>

<あとはこちらのボディローションを体にまんべんなく塗り横になっておまちください>

とここへきて何故か、今までのようなディスプレイ表示ではなく、紙に書かれているメッセージが、ぽつんとベッドの真ん中においてある。

いや、それは紙ではなく、そのしわしわ具合からそいつはどうも食材のように思えた。

なにか、寿司を巻くためにつかう昆布の白いヤツ??

そして、ボディローションの匂いを嗅いでみると、ココナッツ油がベースのようで甘い香りはわかるのだけれど、そのなかにいくつものスパイスがまじっていて、調味料というかタレというか、食欲を思い起こさせる、そんなニオイがしている。

「どうもおかしい」

「なにかがおかしい」

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