20/12/24 個人的ブックオブイヤー2020

説明しよう!個人的ブックオブイヤーとは僕が今年読んだ本の中でお気に入りを選ぶものである!
その本がいつ出たかは一切関係なく、「僕が2020年に読んだ本」が対象です。初読/再読は問いません。

今年はいわゆる「巣ごもり需要」で読書量が増えた…かというとそんなことはなく、電車に乗らなくなったので本を読む量がむしろ減ってしまいました。一番本を読むのが通勤中なので、通勤時間がなくなったことは読書生活には大打撃。

去年は『なめらかな世界と、その敵』『三国志(吉川英治)』『クライム・マシン』と大当たりを3本読めたのに対し、今年はそのクラスは1冊だけかなあ。
一方で今年は青春決着キャンペーンで大物を2つやれたのが良かったです。
子供の頃にハマッて、しかし途中までしか読めていなかったシリーズを、最後まで読破するという個人的キャンペーン。これでハリポタシリーズと名探偵夢水清志郎事件ノートシリーズを完走しました。これは今年の大きな個人的収穫です。

では早速やっていきましょう。全10冊、読んだ順です。ここでは全てが僕の読んだタイミングに依存します。
ネタバレはないようにしていますが、ネタバレの基準は人それぞれなので適宜ご注意ください。


『屍者の帝国』伊藤 計劃、円城 塔

『伊藤計劃トリビュート』というアンソロジーを先に読んでからこっちを読むという逆ルートで入りました。トリビュートで伴名練が書いていた「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」という短編がめちゃくちゃ面白くて、その元ネタも読んでみたくなったという次第。こっちも面白かったですね!
死んだ人間に人工の魂をインストールして労働力や兵力に用いる技術が浸透した世界で医学生ジョン・H・ワトソン(あのワトソン君です)がヴァン・ヘルシング教授と出会い、フランケンシュタインをめぐる謎を追うという話なんですが、他にも現実虚構入り混じった著名人が次々出てくるハッタリ抜群な、豪華な虚構。こういうの大好きです。

『亡霊は夜歩く』はやみねかおる

上述の通り、今年は名探偵夢水清志郎事件ノートシリーズを完走しました。シリーズ全12冊(外伝除く)。推理作家S. S. ヴァン・ダインは「面白い長編小説を書くのは、一作家6作が限度だろう」と言ったあと彼自身が12冊の長編を書き最初の6冊と比べて後の6冊がパッとしなかったことで有名ですが、この法則はそのまま事件ノートシリーズにも当てはまっている気がします。第6作『機巧館のかぞえ唄』までは秀作揃いです。
子供の頃は『機巧館のかぞえ唄』が一番好きだったんですけど、今読むと『亡霊は夜歩く』が一番ですね。「はやみねかおるだから書けるもの」が詰まっています。
あとがきで「30になって初めて書いた本」と言ってるので、デビューは20代の頃でしょうか。真木先生が教師になって7年と書いてあるので、小学校教諭である自身と同じキャリアに設定したのかな。作品全体に思い入れを一際強く感じる一作です。
同シリーズの他の作品では特に犯人に割とファンタジックな造形の人物が多いのですが、今作だけは非常に地に足の着いた、活きたキャラクターになっています。
またミステリとしても仕掛けが盛りだくさん。ハウダニットとホワイダニットがしっかりしていて、ハッタリも効いています。青春モノとしても大人の物語としても芳醇な、傑作です。

『令和新手白書 振り飛車編』片上大輔

個人的に2020年ベスト棋書です(発行は2019年12月)。対抗形で最近表れた新しい形や思想についてまとめた『最新戦法の話』+『島ノート』って感じの1冊。
結構な幅の変化を扱っているはずなんですが、載せる盤面の使い方や枝分かれの整理の仕方が非常にうまく、混乱することがほとんどありませんでした。これは本当にすごい。説明も上手です。
大抵棋書だと「お互い素直に指すとこうなるが…」という順はプロでは実現しておらず架空の棋譜になることが多いのですが、この本では筆者の片上先生が女流プロ将棋にも詳しい方なのでお互い素直に指した例を女流の将棋からうまく拾っています。

『巴里マカロンの謎』米澤穂信

発売日に買って今年2回読んだ本。
再読時に感想を書きました

『煙突の上にハイヒール』小川一水

僕の尊敬する本読みである会社の先輩がイチオシする作家が小川一水なのですが、先輩が入門にと勧めた本です。作者のセンスの高さが光る、きれいにまとまった1冊。「人とテクノロジーの関わりを、温くも理知的な眼差しで描く、ちょっぴり未来の5つの物語」と作品紹介にあるのですが、一言でいうと「大人のドラえもん」。
今よりちょっと未来の世界に、ちょっと飛躍した技術と、ちょっと大人な登場人物が出会ったときに起こることを描いたSF短編集です。
1本目の「煙突の上にハイヒール」の小気味よさで一気に好きになり、その後もクオリティを保ったまま様々に振れる作品を楽しめました。最後の「白鳥熱の朝に」は致死性の熱病の流行によって多くの犠牲者が出た後の世界が舞台なのですが、ちょうど我々の世界でも例の病の流行が本格化しだした2月頃に読んだので、奇妙なシンクロを感じましたね。2008年に書かれた話とは思えない臨場感でした。

『老ヴォールの惑星』小川一水

続けてこれも小川一水。
この本を読んだのは緊急事態宣言が発令されて勤務がリモートワークになり、家から一歩も出ない日々がしばらく続いた頃でした。
上でも書きましたが、通勤が無くなった僕は本当に本を読まなくなっていました。原稿作業をひたすらやっていて、仕事と原稿だけの代わり映えのない日々を閉じこもったまま過ごしていました。今思うと、なんというか、心が動かなくなっていたのかもしれません。
そんなときに久しぶりの読書として読んだのがこの短編集の最初の一編、「ギャルナフカの迷宮」でした。これを読んだ時、なんかいい年して今更恥ずかしいんですけど、本当に読みながら本の中の世界に旅したような気分になったんですよ。僕は風呂で本を読むのが好きなんですけど、短編を読み終えた後ふっと「あ、うちの風呂だった」って我に返ったんです。それくらい没頭していたんですね。
よく読書というのは閉じこもるような行為だといいますが、これはむしろ逆だと思いました。本を読まないのは現実に閉じこもる行為だと。
子供の頃から読書は好きでしたが、もう一度読書好きにさせてくれた、とても心に残る一冊です。

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』J. K. ローリング

上述したように今年はハリポタシリーズ全7巻をマラソンしました。ハリポタは子供の頃にめちゃくちゃハマッて新刊が出ると授業中にも読むくらいだったんですけど、ちょうどこの第5巻『不死鳥の騎士団』を最後に読まなくなってしまっていました。
改めて読んだんですが、どれも全部面白かったですね。あ、でも『炎のゴブレット』は結構退屈してたかも…。未知のゾーンとなる第6巻『謎のプリンス』は出張の行き帰り電車内で没頭して読んでました。そして7巻『死の秘宝』は、夏に祖父が他界して葬儀のため大阪へ向かう新幹線の車中で読んでました。
6巻で明らかになるアレは正直ズコーッてなりましたし7巻もずっと続く鬱々とした展開になかなか乗れなかったのですが、やっぱり最終決戦はこのシリーズを追ってよかったと思える最高のものでした。こんなん絶対読みたいやつじゃん。

『ブルーローズは眠らない』市川憂人

今年の個人的ベスト。高い技術力で下を支えてケレン味のある外見、全てがハイクオリティなミステリです。上で「そのクラス」と書いていた1冊がこれですね。
noteで感想を書きました

『ノッキンオン・ロックドドア』『ノッキンオン・ロックドドア2』青崎有吾

こっそり1枠に2冊詰め込んじゃった。10冊中『ノッキンオン・ロックトドア2』と『巴里マカロンの謎』の2冊が今年出た本です。この頃は読書の調子が良くて、これらも楽しく読めました。
感想は下記単独記事にて。
ノッキンオン・ロックドドア
ノッキンオン・ロックドドア2

『銀座幽霊』大阪圭吉

ラストは戦前の作品ながらその高いミステリ偏差値に感嘆したこの1冊を。これも感想を書きました
同じ作者の『とむらい機関車』『死の快走船』も確保してあるので年末年始に楽しく読もうと思います。