21/05/30 【感想】受け師の道 百折不撓の棋士・木村一基

僕は20年近く将棋ファンで、熱心さに波はあるもののずっとプロ将棋を追っています。指す方はからきしなのでいわゆる「観る将」、しかもネット中継を見たり雑誌や戦術書をたまに読んだりするだけの割とゆるいファンです。
こんな僕ですが、その対局の1週間以上前からそわそわして待ち、当日は仕事をちょくちょく抜け出してはスマホアプリで戦況を伺うほどに熱中した対局がありました。それが第60期王位戦七番勝負、第七局。ディフェンディングチャンピオン豊島王位に木村九段が挑戦者として挑んだこのタイトルマッチ、フルセットで迎えた最終局です。

本書はこの大一番をクライマックスに置き、そこへ至る木村一基という棋士のドラマを記したノンフィクションです。

最年少のタイトルも偉業だが
最年長の初タイトルに心が動くのはなぜだろう

 2019年9月26日、八大タイトルの一つ、王位戦で、将棋界にまた一人タイトルホルダーが生まれた。
 木村一基九段。年齢は四十六歳。最年長にしてプロ入り後最遅、挑戦回数も最多の初のタイトル奪取に「中年の星」と騒がれた。まさに座右の銘である「百折不撓(ひゃくせつふとう=何度失敗してもくじけないこと)」を体現したような快挙だった。
 藤井聡太七段はじめ、若い新星が次々と現れる棋界にあって、年齢による衰えは誰もが通る道。木村九段も例外ではない。「将棋の強いおじさん」「千駄ヶ谷の受け師」「解説名人」など数々の呼び名があり、人気は高いが無冠で、「もうタイトルは無理では」と思われていた木村九段の、衰えるはずの年齢での王位獲得。その長すぎる道のりを、東京新聞で「盤記者」として数々の取材や連載執筆をし、木村王位の多くの涙にも立ち会ってきた樋口記者がまとめた。

いやー、良い本でした!

木村先生について語りたいことはたくさんあるんですけど、ほとんどこの本の中で網羅されてるんですよね。それくらい「そこだよ!それ!よく書いてくれた!!」ってことと、それに加えて「そんなことがあったのか!よく書いてくれた!!」を連呼せずにはいられない良書でした。

この本に出てこない、僕の好きな木村先生エピソードをひとつ…。

木村先生の2個上の棋士、近藤正和先生が著書『ゴキゲン中飛車で行こう』の中で書かれていた木村評が好きなんですよね。
近藤先生も木村先生と同じくデビューの遅かった棋士なのですが、そんな近藤先生が木村先生を評して「奨励会で長く苦労しすぎて将棋がおかしくなってしまい、ひたすら受けるようになった」といった趣旨のことを書いていたのが強く印象に残ってるんです。

かように棋風や指し手に人生があらわれるところが木村先生の魅力であり、将棋そのものがドラマであり、それゆえあれほどに王位戦第七局は僕を夢中にさせたんだと思います。これだからプロ将棋は面白い。

あと木村先生関連で好きな記事。

後者はこれ書いてるときに見つけました。ラッキー。