23/09/17 【感想】化石少女と七つの冒険

麻耶雄嵩ゆたかによるミステリ短編集『化石少女と七つの冒険』を読みました。
ま、麻耶雄嵩~~~~!!!(読後の第一声)

前作『化石少女』は麻耶雄嵩の隠れた良作として個人的にお気に入りの作品でした。その続編として刊行された今作ですが、前作ラストの構図を継承してその上で色々と構図上の悪巧みを仕掛けてきます。『翼ある闇』を受けての『名探偵 木更津悠也』といえば麻耶雄嵩ファンには伝わりますでしょうか。
ちなみに本作は冒頭でいきなり前作『化石少女』の結末部分に関するネタバレがあり、それを所与として話が進みますのでご注意ください。

探偵役のロールや機能にひとひねり加わっている、というのは麻耶雄嵩作品においては非常によくある趣向ですが、本作もその趣向を取りつつ、連作の中で盤面そのものがダイナミックに変わっていくのが特徴的でした。

読んでいて連想したのが「人狼ゲーム」。
村人チームと人狼チームに分かれて、話し合いで人狼を推理するテーブルゲームです。人狼チームは毎晩村人を襲撃して村の半数以上が人狼になるまで村人を減らせば勝ち、村人チームは村に人間のふりをして混じった人狼をすべて処刑すれば勝ち。
僕はこのゲームをオンラインで遊ぶのに凝っていた時期があったのですが、このゲームにはいくつか定跡のようなものがあります。村人の中にも役職というものがあって、占い師とか霊媒師とかになると特殊能力を使えるんですね。こうした役職や、村人チームか人狼チームかの立場それぞれである程度セオリーが語られているのです。
で、この定跡って「狼があと何匹残っているか」とか「村人が食われ尽くす前にあと何回処刑のチャンスがあるか」とかの条件によって変わってくるんですよ。盤面の状況、勝利条件との距離感で最適解が変化するというのが面白いところで。
本作を読んでいて、僕はこの人狼ゲームを連想しました。

タイトルにもなっている化石少女・神舞まりあは、推理を行う、いわゆる「探偵役」。そして主人公の桑島彰はミステリ的にいうと「助手役」なのですが、ただの助手にはとどまらない非常に独特なロールをすることになります。
ふつうミステリにおいて「探偵役」も「助手役」も勝利条件は「事件の解決」なのですが、本作はここが複雑になっています。

前作ではまりあは古生物部の存続という「勝利条件」につなげるために探偵行為を行っていたのですが、今作では中盤に古生物部の存続が確定すると探偵行為に興味を失ってしまったりします。
一方の彰はもっと複雑で、彼はとある事情で「まりあに自身の推理力を自覚させないこと」が勝利条件として設定されています。そのため、まりあの推理を成立させないようなロールをとることになる。
そこに3人目の部員が参加してきて彼もまた独特な勝利条件を持っていそうだったり、しかも主人公の彰の目線では「彼の勝利条件を推測する」必要があったり。途中、推理合戦をする他の探偵気取りが変数として加わってきたり。役職の追加とかまさに人狼ゲームが複雑になっていく過程のよう。

かように、謎解きそのものよりも「特殊な勝利条件を持った探偵や助手などの役職たちが盤面の変化に振り回される人狼ゲーム」として独特の魅力を持った作品になっているのです。そういう意味ではマーダーミステリーに例えたほうがよかったか。

謎と推理および解決は前作に比べるとシンプル、率直に言うとその部分の魅力は乏しくなっています。
前作では各話まりあが古生物とのアナロジーで奇天烈なトリックをひねり出すのが魅力のひとつだったわけですが(「自動車墓場」大好き!)、今回はその趣向は一歩後ろに引いています。まりあは一応トリックを考えはするものの比較的おとなしく、古生物に絡めた推理に至っては姿を消しています。

このシンプルさのせいで謎と解決が盤面という背景に追いやられているようにも見えてしまうのですが、これも考えようによってはすごい話ですよねえ。本格ミステリをいじくりたおして突き詰めていった結果、「謎と解決が主たる興味になる」という本格ミステリの性格を置き去りにしてしまったということなので…。

女子高生探偵まりあ率いる古生物部の男子二人には黒い秘密があった。絡まり合う学園の事件と秘密、その果てに予測不能の結末が!

化石少女と七つの冒険 - 徳間書店