23/06/13 クイーン新訳ダービー

(♪ファンファーレ)

10年以上にわたって断続的にファンを喜ばせてくれている、越前敏弥氏によるクイーン新訳シリーズ。
角川文庫で悲劇四部作および国名シリーズ+1という前期クイーンの大傑作群の新訳をものすると、流れるように次はハヤカワミステリ文庫から中期傑作群をリニューアルして送り出してくれています。

  • 2014年12月、『災厄の町』

  • 2015年8月、『九尾の猫』

  • 2020年12月、『フォックス家の殺人』

  • 2021年2月、『十日間の不思議』

  • 2022年8月、『ダブル・ダブル』

  • 2022年12月、『靴に棲む老婆』

『災厄』『九尾』の超有名2タイトルを出した後、5年間のブランクをはさみました。
しかしその後打って出た『フォックス家の殺人』『十日間の不思議』の新訳はとても好調だったそうで、『ダブル・ダブル』『靴に棲む老婆』の新訳シリーズも続くという嬉しいニュースを聞くことができました。

そして今や『靴に棲む老婆』の新訳まで読み終えたわけですが…ここで気になるのは、次に出るのは何かということ!
正直、上記6冊で中期傑作群についてはある程度「やりきった」感もあり、ここからあえて次を選ぶのは少し難しい。しかしだからこそ、予想しがいのあるシチュエーションになっています! あなたの夢、私の夢は叶うのか!

僕は『緋文字』と『盤面の敵』の2点買いで勝負したいと思います!!

緋文字

中期の良作としては他にもある中でなぜ『緋文字』を買うかというと、直近の刊行が『靴に棲む老婆』であることに関係があります。
『緋文字』、長編では珍しいニッキー・ポーター登場作なんですよ! なので出すなら『靴に棲む老婆』の直後がいいだろうと。

身もふたもないことを言うと『緋文字』は終盤になるまであまり面白くないという欠点があったのですが、そこがブラッシュアップされたりしないかなという期待も込めています。
ちなみに僕の『緋文字』で一番好きなところはエラリイが一般人に普通にパンチされて失神するところです。

盤面の敵

ここまで『十日間の不思議』『ダブル・ダブル』『靴に棲む老婆』と来ていますが、『盤面の敵』ってこれらの系譜の進化系だと思うんですよね。
既刊3作では真相のなかでしか使えていなかったギミックを、この『盤面の敵』では叙述の妙によって「謎」の部分で使えていて、これが本作のリーダビリティーをぐっと高めています。「ミステリというエンタメ」として非常に面白い。

北村薫『盤上の敵』をはじめとしてタイトルをパロられがちな作品で、そうした教養的な意味でも「原典」をメンテナンスして文庫に収めておくことには大きな意味があると思います。

その他の候補について

クイーンのフルハウス』とか、それこそニッキー登場作の『犯罪カレンダー』とかも個人的には好きなんですけど、今回は長編に絞って買うことにしました。

中期クイーンからの選出となるとライツヴィルの系譜でもある『帝王死す』も有力候補になるのではないかと思います。しかし、今回思い切ってこれを外すことにしました。何か外す理由があったというよりは、それ以上に『緋文字』『盤面の敵』で勝負したいという上記のような理由があったため。

『フォックス家の殺人』あたりがミステリの文章としてとてもかぐわしいものになっているのを見ると『』とか是非読んでみたくなるのですが、これは『緋文字』とは逆に、『靴に棲む老婆』の直後だから避けるだろうと予想。

ニッポン樫鳥の謎』は穴馬になるでしょうか。かつては国名シリーズにも数えられていた…というか他ならぬハヤカワが数えていた作品で、原典の刊行は『中途の家』の1年後。
クセの強い作品ではあるのですが、既に中期クイーンのコッテリした部分を読んできたフォロワーには何の問題もないでしょう。
ただ、これらの既に新訳が出た中期作品は『ニッポン樫鳥』をプロトタイプとしてブラッシュアップした実装という感じもするので、今更『ニッポン樫鳥』はやらないと予想。

個人的に偏愛する作品である『ハートの4』の新訳が来ても嬉しいな!
ただ、ここに関しては『エラリー・クイーンの新冒険』の新訳を出している創元推理文庫が責任を持って(?)やってくれるのではないかと期待しているところです。