22/08/11 【感想】神さまがまちガえる(1巻)
「やがて君になる」の仲谷鳰によるマンガ「神さまがまちガえる」1巻を読みました。
前作は百合漫画の傑作でしたが、今作は「少年とおねーさんの日常もの(作者談)」。
シェアハウスで暮らす中学生男子の主人公と大家のお姉さんを縦軸に、「バグ」と呼ばれる超常現象がたびたび起こる世界を横軸に据えたソフトSFな日常ものです。
僕の好きな言説に「SFは超技術や超自然そのものを描くのでなく、それによって変化する社会を描くもの」というのがあるのですが、本作もこの良質なSFの条件を満たしています。
本作の魅力は超常現象「バグ」が生み出す少し変わった世界の日常が絵として表れていることだと思います。
第1話では突如異常繁殖した植物が町中を覆い、家の中や町が植物と同居する。これが実際に絵として描かれるのがマンガというフォーマットのとても良いところ。そして人工の建物を植物が這ってる絵ってすっごく好きなんですよね!
また「日常もの」であることがその不思議な世界と絶妙な食い合わせになっていて、数日間しかない不思議な世界でそれに適応したりそれを楽しんだりという生活の営みが描かれるのが実に面白い。
「ドラえもん」なんかとイメージ的には近いのかもしれません。普通の市民、普通の学生が、ある日空を飛べるようになったらどうするか。何をして遊ぼうか。そんなワクワクがあります。
また世界の「バグ」に対する社会の対応みたいなものが描かれるのが実にSF的に面白いところでもあり。世界がすべて左右反転してしまうという話では、文字は反転して読めなくなってしまうため映画館が字幕版を全部吹替版に変更して流すという実に気の利いたエピソードが挿入されています。こういうのがすっごくSF的に気持ち良い。
考えてみると雨が降るメカニズムが解明されるずっと前から人間は空から水が降ってくるという事象に対して屋根を作ったり傘を使ったり(4000年前からあるらしいです)しているわけで、人間が奇妙な事象に対して対症療法的に適応するというのはある種自然というか、それが文化というものなのかもしれません。
日常の中の非日常、そして「非日常の中の日常」。
シェアハウスに暮らす中学生の少年と彼を助手と呼ぶ研究者のおねーさんという組み合わせといい、とても「気持ち良い」ポイントのたっぷり詰まった滋味深い作品となっています。
次巻以降も楽しみ!
余談。
本作の「世界のバグ」を見てると『偶然の聖地』を思い出しちゃった。
本作も「バグのおかしみ」系、いやむしろグリッチかもしれない。