21/05/02 【感想】黄色い夜

宮内悠介『黄色い夜』を読みました。
東アフリカに存在する架空の国家E国を舞台とした中編です。その国は資源のない砂漠ばかりの国で、国家を支える産業はカジノ。国の真ん中にあるカジノ・タワーに欧米から客を呼んでその収益で国家を運営しているという設定です。
タワーは上へ行くほど掛け金のレートが上がり、最上階では国王自らがディーラーとなり、大金を賭けた勝負に勝てば国を手に入れることもできる。
その塔に挑む主人公とパートナー、そして様々な背景を持つライバル達の物語。

話の流れはカイジの沼パチンコなんかに近いのですが、勝負の際に交わされる論駁が本作に独特な雰囲気をもたらしています。
塔を登り国を手に入れようとする主人公は自らの思想を体現する国家を作りたいという考えがあり、カジノ側のディーラーとして出てくる対決の相手も思想的・宗教的なバックグラウンドを持っています。それをぶつけあうさまはドストエフスキーのいくつかの作品や『死靈』、矢吹駆のシリーズなどを彷彿とさせました。
ですがどれだけ思想をぶつけあっても、勝負は結局ギャンブルで決まるというのが良い。
考えようによっては、ギャンブルは神を信じる者と信じない者が唯一同じ土俵で勝負できるものなのかもしれません。

エンタメ小説としても、イカサマ辞さずでカジノ・タワーを勝ち登っていくテンポの良さが非常に気持ちよく、カジノのゲームにとどまらない即興のゲームなど読みどころがたくさんあって面白かったです。

本作は架空の国家を舞台としていますが、そのことによるどこか絵空事のような現実感のない雰囲気はちょうど本作の表現に合っていたと思います。
同様に架空の国家を舞台にしていた『後は野となれ大和撫子』は現実感のなさが悪い意味での軽さ、安っぽさにつながっていたのに対し、本作は思考実験を読むような読み口が絶妙でした。

東アフリカの大国エチオピアとの国境付近。ルイこと龍一は、そこで知り合ったイタリア人の男・ピアッサとE国へ潜入した。バベルの塔を思わせる巨大な螺旋状の塔内に存在する無数のカジノが、その国の観光資源だった。そこは、砂漠のなかに屹立するギャンブラーたちの魔窟。上階へ行くほど賭け金は上がり、最上階では国王自らがディーラーとなり、国家予算規模の賭け金で勝てば、E国は自分のものになるという……。奪われたものを取り戻すために、そして、この国を乗っ取るために、巨大なカジノ・タワーの最上階を目指せ! 注目の作家が放つ、最新ギャンブラーズ小説。