21/05/13 【感想】遠い他国でひょんと死ぬるや

宮内悠介『遠い他国でひょんと死ぬるや』を読みました。 

タイトルは竹内浩三という詩人の詩の一節で、この詩人の遺稿を探しに日本人がTVディレクターを辞めてフィリピンに行くというのが話のはじまり。ここにフィリピンという国の歴史的背景や宗教対立、そしてそれを体現するような登場人物があらわれ真面目な話になりそうに見えて竹内の遺稿を探すトレジャーハンターのドタバタコンビや占いとかいうオカルト要素が絡んできて一気に寄せ鍋状態に。
このハッタリの掛け算が始まるともう宮内悠介の独壇場です。結構重いテーマも扱うのですが、この人特有のひょうひょうとした筆致でぐいぐい読み進められます。

ただ読み終えた感想は、正直「もう一章ほしかったな」というもの。例え味消しになるとしても「その後」を書いてくれるというのは宮内悠介のいいところでありそこを信頼していたので、今回はちょっと残念でした。結局未消化のまま終わった要素がかなり多かったのも個人的にイマイチ。
いろいろな要素を足し算してみたはいたものの、今ひとつその相乗効果が感じられなかったように思います。

というふうに1冊の長編小説として読むとウーン…という後味が残るものなのですが、読書体験としては悪くない。不思議な転がり方をする冒険小説で、シチュエーションがどんどん変わり物語のテンポにも妙な緩急があって、なんだか不思議と面白いんですよね。
期待した面白さはないが、期待してなかった面白さはある」という感想になるかも。

あらすじより下にちょっとだけネタバレ感想。

ぼくは、ぼくの手で、戰爭を、 ぼくの戰爭がかきたいーーそう書き残し、激戦地ルソン島で戦死した詩人・竹内浩三。彼は何を見、何を描いたのか?テレビディレクターの職を捨て単身フィリピンに渡った須藤は、その足跡を辿りはじめた。だがその矢先、謎の西洋人男女に襲われ、山岳民族イフガオの娘ナイマに救われる。かつて蹂躙された記憶を引き継ぎ日本人への反感を隠さないナイマだが、昔の恋人ハサンの実家を訪ねる道行きに、付添いとして須藤を伴うことに。ミンダナオ島独立のために闘ったイスラム一族の家で一時の休息を得た須藤だったが、ハサンの家は秘密を抱えていた…。

結局ハサンが突然低体温症で倒れたのはなんだったんですかね…?作中で判明してましたっけ?
他にもカルシウムテレパシーは最後のシーンに必要だからしょうがないにしても、占いとかのファンタジー要素にあまり意味がなかったような…。
ドライな考え方をする主人公が多い宮内作品にしては珍しくウェットな主人公なので、他にコメディリリーフを投入したということなのか。実際それでだいぶ読みやすくはなってました。

この作品は雰囲気がいいですねえ。船旅の様子とか大好き。軟禁されながら子育てするシーンにも妙な良さがある。軟禁されてるのに妙に開放的で、クリスチアナ・ブランドの小説『はなれわざ』に出てくる雑監禁みたいな味わいがあります。