20/11/26 【感想】怜-Toki- (1-6巻)

突然ですが、園城寺怜の話していいですか!?


この記事は"咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A"のネタバレを含みます。
"怜-Toki-"についてのネタバレにはならないようにしています。

ただしネタバレの尺度は人それぞれです。
怜-Toki-を最も楽しむにはいますぐこの記事を閉じて公式サイトで1話2話を試し読みし、勢いそのままにコミックスを全巻読み進むのが最善です。


警告を経由してここまで読み進めているあなたはきっと、阿知賀編が好きな人でしょう。そしてきっと園城寺怜が好きな人でしょう。ならばいますぐ怜-Toki-を読むが吉です。

冒頭で宣言したので園城寺怜の話をするんですけど、阿知賀編の怜がめっちゃ好きなんですよね。だってカッコいいもん。咲-Saki-というシリーズは読めば読むほど推しが増える作品なんですが、その中でも怜は一等好きです。

阿知賀編ですごく好きなシーンがあって。ダブルもトリプルももちろん好きなんですけど(アニメ版のED前の引きがめっちゃカッコいい)、更に好きなのが全国大会のため東京へ向かう機上で、怜が大阪の街明かりを見下ろすシーンです。

咲-Saki-という作品において「エース」という概念がはっきりしてきたのは阿知賀編あたりからだと思っています。そして僕はこのエースという概念、肩書がキャラクターにかかるのが大好きなんですよね。

準決勝先鋒戦、宮永照の怒涛の連続和了の前に絶体絶命のピンチに陥り、牌すら重く感じるほどに消耗する怜。彼女が絶望的な運命に立ち向かうため命を賭して3順先を見ようとするシーンは阿知賀編を読まれた方なら強く印象に残っていることでしょう。逆に読まれてない方はなんのこっちゃだろうとお察ししますがそういうものだと思ってください。
死線に踏みだす前、怜の視界に様々なものが浮かびます。彼女が三軍だった頃からよくしてくれた親友たち、共に闘ったチームメイト…そして最後に浮かぶのが、飛行機から見た大阪の街なんです。そう、彼女は北大阪代表・千里山高校のエースなのです。あの窓から見えた無数の光すべてを背負うのです。そして彼女はエースとして覚醒するのです!アツい、アツすぎる!!

…前置きが長くなりました。
怜-Toki-はそんな園城寺怜という少女のルーツを描く作品です。

今まで漫画の感想は完結したものだけを書いてきたのですが、あまりに語りたくなったので今回は連載中の作品ですが書かせていただきます。こぼれ響く音がリズムになって夢咲かせようとフィールドを歌うので初投稿です。

「一巡先が見える」少女、園城寺怜。小学生だった頃の彼女は、自分の未来についての一巡先を知らなかった──。めきめきが描く「咲-Saki-」スピンオフシリーズ、ついに開幕──!!

本編や阿知賀編では高校3年生の千里山高校エースとして登場する園城寺怜を、彼女が小学5年生に進級した日から描くスピンオフです。

本作の怜は未来視に目覚めて千里山のエースになる前の怜です。病弱で無口、友達もおらず勉強も運動もできない。趣味は一人で積み木をすること。

それでもところどころに高3の怜につながる部分というか、「ああ、これは阿知賀編に出てくるあの園城寺怜に成長する子だ」というのが絶妙な塩梅で差し込まれるんですよね。この加減が幼年期編スピンオフとしてめちゃくちゃうまい。
本編や阿知賀編をご存じの方なら、天性の攻め気質やここぞの場面で湧き上がる闘争心など、高3の彼女につながる片鱗を試し読みの2話分からでも感じ取れるかと思います。

一方で清水谷竜華は後に強豪・千里山高校のレギュラーになり個人としても関西屈指の打ち手となるだけあって本当に強い。

咲という作品世界の、このへんの説得力みたいなものがすごく好きなんですよね。高校野球で大阪桐蔭のレギュラーになるような子はジュニアの頃からすげえ選手だったよな、みたいな感じ。奨励会に入るような子は地元じゃ天才少年だったよな、みたいな感じ。

人柄もスタイルもよく、お勉強ができて運動神経も良くてクラスの人気者。それが本作の竜華です。怜の竜華に対する第一印象は「自分と正反対」「持ってる子」というものでした。

この2人の構図がまず最高ですよね。というか第1話なんて完全に百合漫画の導入ですからね。やがて君になりそうですからね。

本作は阿知賀編と違って咲-Saki-原作の小林立先生は原案のみ提供だそうですが、咲-Saki-の設定がとてもきれいに生かされていて、演出や展開、描写など全てがめちゃくちゃ咲っぽいです。
咲-Saki-本編は全国のトップを争い超級能力バトルになってますが、この怜-Toki-はいい意味で普通に麻雀してます。本編の長野県大会までぐらいが特に好きだったという方は非常に楽しめるのではないかと思います。

…と魅力たっぷりの本作なのですが、最大の魅力を挙げるとしたら主人公・園城寺怜そのものです。
阿知賀編でも主役を食ってしまいかねないくらいの主人公力を発揮していた怜ですが、名実ともに主人公になった本作は彼女が本当に魅力的なんです。

最初はなにもなかった怜が、麻雀を通じて人と出会い、友達ができて、自信をつけ成長していく。
繰り返しになりますが本作で怜は麻雀が強いわけではないです。でもとにかく楽しそうに打つんですよね。大失点を振り込んでも大負けしても、あきらめずに笑う。
そんな彼女の姿に対戦相手もいつしか心を溶かされていきます。怜の麻雀は活人剣です。
中には小学生にして色々なものを抱え込み、自由に麻雀を打てなくなっているような子も出てきたりするんですよ。そんなとき、何も背負わず自由に楽しく伸び伸びと麻雀を打つ怜の姿に心動かされるわけです。

そして同時に阿知賀編を知っている読者は、幼く何も背負わず麻雀を打っていた彼女が、後に立ち向かうことになる運命を知っています。彼女がまだ知らない、名門・千里山のエースとして北大阪を背負うことになる未来を知っています。
だからこそ、幼年期の怜の無邪気な姿がより一層沁みるんです。

そしてもうひとつこの漫画の魅力として、怜の未来視が演出として縦横に活用されていることを言わせてください。
怜といえば未来視、怜の名勝負といえば宮永照らとの全国大会準決勝先鋒戦ですけど、あの対局で宮永照にあれほど絶望感があったのは単純に連続和了することや腕から竜巻が出ること以外にも怜の未来視による演出が大きいと思うんです。「1順先に宮永照が和了る未来が見えてしまい、そしてそれを変えようとしても変えられない」という描写がされるため、読者は宮永照の一度の和了で二度三度と絶望感を味わうことになったのです。
本作ではこの「未来視を使った演出」を応用して実にうまい演出が行われています。

あと野上葉子という最高のキャラクターとか本編にも登場しているあのキャラとかこのキャラとかも語りたいんですが最後にひとつだけ!

これは咲-Saki-という作品に共通して好きなところなんですけど、登場人物がみんな麻雀を打つ麻雀漫画なので、ほとんどみんな根っこのところで勝負師なんですよね。というか正確には、みんな「どこかで勝負師になる瞬間が描かれる」。これが咲シリーズの大きな魅力だと思います。ほんとに多種多様な美少女が登場する漫画なんですが、みんな勝負師なんです。
僕はこの、勝負師を見せる瞬間が大好きです。なのでこのシリーズはどんどん推しが増えるんですよね。

あ、ちなみに咲のスピンオフなので当然のようにパンツをはいてません。そんなところで作品世界を通じて設定を共有しなくていいから。