20/10/18 【感想】ノッキンオン・ロックドドア2

青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア2』を読みました。
タイトルからも分かる通り、無印の続編です。引き続き短編集で、不可能興味に対する探偵・御殿場倒理と不可解興味に対する探偵・片無氷雨のタッグが続投しています。更にその周囲のキャラクターにもよりスポットが当たり、キャラクターとして動き出すのが魅力的な短編集でした。

ミステリとしても前作よりも安定した印象があります。特に作者がこの短編の「長さ」に慣れたのか、謎のスケールや全体の構成がちょうどよくまとまるようになっています。

前作の感想はこっち↓

あらすじより下はネタバレ感想です。

解かないほうがいい謎なんてこの世には存在しない。
若きミステリー作家が描く最高のダブル探偵シリーズ、第2弾!
不可能な謎専門の御殿場倒理(ごてんばとうり)
不可解な謎専門の片無氷雨(かたなしひさめ)

密室事件と思いきや壁には巨大な穴が開けられていた。犯人の目的とは?(「穴の開いた密室」)
トンネルに入った女子高生が忽然と姿を消した。彼女は一体どこへ?(「消える少女追う少女」)
など全6篇を収録!
(徳間書店HP内作品ページより引用)

「穴の開いた密室」

プリコネのアニメで全く同じシチュエーションがあったため、見取り図を見た瞬間になぜ穴を開けたのかが分かってしまい、外からテーブルが運び込まれたことも分かってしまい…。事故ネタバレ。

「時計にまつわるいくつかの嘘」

アリバイもののハウダニットかと思ったらそうではなく、犯人絞り込みの純粋なフーダニットもの。その絞り込みがすべて1本の腕時計から導かれるのがおしゃれ。
タイトルにもなっている時計にまつわる「いくつかの嘘」のうちひとつは被害者がついたもので、そのことが結果的に犯人特定につながっているのもおしゃれ。
小粋な短編です。

「穿地警部補、事件です」

個人的にこの巻のベスト。
探偵たちによる誤った推理も面白いのですが、それを覆す穿地の推理もこの作者らしい小気味良い手がかり推理で二度美味しい多重解決になっています。シリーズ探偵が普通に間違えてシリーズ刑事が正解するという構成の時点でオイシイ。

「消える少女追う少女」

優花=岬は状況的にもメタ的にもすぐ分かってしまうので真相自体は予定調和なのですが、サブキャラクターだった薬子ちゃんの活躍や最後の探偵たちによるエールが温かく、良い「解決」になっています。
短編集のなかにこういうのが一本入っていると良いアクセントになりますね。ミステリ連作の妙はパターン化とパターン崩しにあり。

「最も間抜けな溺死体」

死体の状況も色々やれそうな条件もちょうどいい手がかりの量も、魅力的な謎。ほどよいサイズ感のハウダニットでした。
「美影が噛んでいるからにはそんな平凡なトリックじゃない」という理由で平凡なトリックを退けられるのは便利だな、というのが一番の感想。
ですがこの手のトリックもので定番の「なぜわざわざそんなトリックを使って殺したのか?」という問いに対して「なるべく間抜けな死に方をさせたかったから」という回答を用意しているのがこの話の見どころじゃないかと思います。

「ドアの鍵を開けるとき」

同じ研究室の仲間である大学生4人、そのたまり場で密室殺人…という『匣の中の失楽』的な状況がまず魅力的。そしてその関係者全員が後に探偵や警官、トリックメーカーとして「謎」に関わる人々で、その面々が5年後に集まって謎解きをする…というシチュエーションたるや短編集2冊の締めくくりに相応しいワクワクものでした。
そして解決も推理合戦の様相を呈しながら綺麗な多重解決で、真相もハウダニット・フーダニット共に面白く、この一編の完成度がシリーズ全体の完成度をワンランク上げているように思います。面白かったです。