21/04/02 【感想】超動く家にて

宮内悠介『超動く家にて』が文庫で出ます!創元SF文庫。いい表紙だあ…。

読んだのはnoteで本の感想を書くようになる前なのですが、自分用の読書ノートはつけていたのでそこから当時の感想を抜粋します。自分用なので当然ネタバレ配慮は全くありません。
個人的ベストは「アニマとエーファ」、次いで「文学部のこと」かなあ。

*   *   *

「トランジスタ技術の圧縮」
これこれ、このハッタリだよ!この与太話だよ!いい冗談だった。

「文学部のこと」
これまたいいハッタリ。結局「文学」とはなにか明かされないのがいい。酒のように描かれるのだが「酒」という単語は別に登場するので酒そのものではなさそう。
日本酒のようなものをイメージしているのだろうか?もちろん「文学」そのものに対する皮肉であることは言うまでもなし。
そしてその「文学」をあくまでガジェットとして使い倒し、話はそれなしでも成立するものにしているのがニクい。この手の話のお手本のような出来。

「アニマとエーファ」
革命勢力の台頭する政治体制が不安定な国家、自動人形、と宮内悠介の好きなものが揃った話。構想や話のスケールに対してちょうどいい長さ。
芸術家(作家)が物語を神の手に返すと言って自動人形による物語作成をプログラムしたところから始まるのだが、どんな物語も生成可能になった結果、人々が読みたがる話ばかり生成されるようになり物語は完全に市場原理という神の手に返された…というロジックの飛躍がイカニモな宮内節で好いたらしい。良作。

「今日泥棒」
日めくりカレンダーを毎日自分でめくることにこだわる父が夕食の場で犯人探しをするショートショート。短編推理としての機能も実装し、よくまとまっている。きれいなつくり。
この短編集、当たりの予感がしてきたぞ。というか宮内悠介はやっぱり短編作家だな。長編もうまくいってるのは短編をいくつも書くようにして書いてるものだし。
(※注釈:毎日読んだ話の感想をメモしていたので、一冊読み終わる前に書いた感想があります)

「エターナル・レガシー」
詰め込んだガジェットも雰囲気も面白かったがまとまりきらなかった感。冗語としては面白い。
作者得意のプロ囲碁棋士vsコンピューターの話題で、うまいことリアルと虚構を織り交ぜている。

「超動く家にて」
これでもかとやったジョーク・ミステリ。ジャンルとしては地味に歴史のあるものだが、その末席を占めるには十分、それ以上でもそれ以下でもないって感じかな。

「夜間飛行」
これも人工知能人形と人間の間をあいまいにする『ヨハネスブルクの天使たち』系の話。ネタと長さのバランスがちょうどよい。

「弥生の鯨」
これまたいいホラを吹いている。筆者の持ち味である闇鍋感がよく出た話。
宮内悠介はなんというか、「現代作家」だなあ。

「法則」
ノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則から逸脱したことが絶対起こらない世界での犯罪を、犯人の視点で描く。しかも犯人はそれらのルールを途中で自覚する。
一発ネタでしかないのだが、それをちゃんと一発ネタとして消費したあたりは流石。

「ゲーマーズ・ゴースト」
冗談のような登場人物が冗談のような理由で一緒に逃避行する短編。いかにもな、魅力的な設計で、実装もそれなり。ミステリと違って構造の解体および解明が解決につながっていないことが特徴。
このジャンルで筆者よりもうまく書く人はいるだろうが、それでも書いてみたかったのだろう。

「犬か猫か?」
オチはちょっとだけ面白いが、それだけ。本編がもっと暴れてほしかった。

「スモーク・オン・ザ・ウォーター」
ものすごいサクサク進むんだけど、この話はこれでいい気がする。これ以上書き込もうとすると一気に面倒くさい問題が多数かかわってくるし。
煙状の異星の生命体が、人間は殻で人間の吐いた煙草の煙が本体だと錯覚したというところが面白い。

「エラリー・クイーン数」
これだけ先読んだ。うーん、遊び心に実装が追いついてない感じ。

「かぎ括弧のようなもの」
これも「文学部」系の、キーとなるワードが我々の世界とは違う使われ方をしていることだけはわかるのだがその実態は分からないというもの。けれどこっちはもうひとつだったなあ。

「クローム再襲撃」
サイバーパンク。千葉がやたら評価高いところなんかを見ても、ニューロマンサーを強く意識しているのだろう。
んー、あまり話が入ってこなかった…。

「星間野球」
元は『盤上の夜』の末尾に置くつもりの話だったらしい。
これはこれで独特な雰囲気のある終わり方にはなっただろうが、でもやっぱり「原爆の局」にしておいたほうがよかっただろう(「原爆の局」は大しておもしろくなかったが)。あのシリーズの最後に近未来の宇宙の話を書かれてもね。
逆にこの短編集にはうまく溶け込んでいる。あの手この手のイカサマ勝負が面白い。

「あとがき」
作者本人が書きたいと言って書いたらしい、解説でメインコンテンツのように言われていたパート。各短編集の来歴などは読んでいて楽しい。
あとこの作品にいくつか出てきた他の作品と同じテーマのもの、「作者はこのテーマ好きね」と言っていたものは、その「他の作品」の取材のついでで書けた感じみたいね。